榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生物多様性への脅威を静かに訴える珠玉の写真集・・・【山椒読書論(297)】

【amazon 『野生の鼓動を聴く』 カスタマーレビュー 2013年10月27日】 山椒読書論(297)

野生の鼓動を聴く――琉球の聖なる自然遺産』(山城博明撮影、花輪伸一解説、高文研)は、沖縄の動物と植物の写真集であるが、「この宝物をどう守り、どう引き継いでいくのか」という山城博明の危機感、使命感がひしひしと伝わってくる。

動植物の決定的瞬間を捉えた、大きめのカラー写真のいずれもが、すこぶる鮮明で美しい。

中でも、イリオモテヤマネコが目を爛々と輝かせ、牙を剥いた写真には、たじたじとさせられてしまった。「イリオモテヤマネコは小動物や鳥類、トカゲ、カエルなどを捕食して生きている。暗闇の中、この顔がライトに浮かんだ時はシャッターを押す指が震えた。国の特別天然記念物(西表島東部、2006.5.16)」という山城のコメントが緊迫感を物語っている。

リュウキュウヤマガメの「森の哲学者」然とした顔が印象的だ。「やんばるに生息するこのヤマガメも天然記念物に追加された。森の哲学者と称される(国頭村、2004.5.21)<絶滅危惧種>」。

ヤシガニの巨大さ、明るい水色の美しさは格別だ。「夜中、イリオモテヤマネコを撮影中に人が枯葉を踏む音がしたので撮影小屋を飛び出すと、巨大なヤシガニだった。陸生のヤドカリで、体重1.3キロにもなるという(西表島、2003.2)<絶滅危惧種>」。

ヤンバルテナガコガネの一見地味だが風格ある美しさに惹きつけられてしまった。「沖縄を代表する昆虫で日本最大のカブトムシ。天然記念物。雄は体長5~6センチになる。やんばるにのみ生息する(国頭村、1991.5)<絶滅危惧種>」。1990.7撮影の写真は、「大木の樹洞の中で生活する。美しく最大のカブトムシということから、発見当時、密猟が横行した」とコメントされている。

イボイモリは背中に密集したイボが掻痒感を催させる。「原始的な形態を有し、学術的に貴重な種である。沖縄県指定天然記念物(国頭村、2008.5.4)<絶滅危惧種>」。

オキナワイシカワガエルの毒々しい美しさは、自然の不思議さを感じさせる。「沖縄島の固有種。緑色が鮮やかだ。夜行性で昼間は土の穴や樹洞などで休む。沖縄県指定天然記念物(国頭村、2002)<絶滅危惧種>」。

コノハチョウが羽を閉じたときと、羽を広げたときの大きな落差には驚かされる。「羽を閉じたときには、その名のとおり木の葉にしか見えない。しかし羽を広げるとこのように鮮やかな色彩を放つ。天然記念物のため採取は禁止されている。沖縄県指定天然記念物(沖縄島・本部半島、2013.6.13)<準絶滅危惧種>」。

ダイトウコノハズクの眼光の鋭さには射すくめられてしまう。「沖縄島の東400キロの太平洋上に位置する南北大東島の固有亜種(南大東島、2013.1)<絶滅危惧種>」。

カツオドリの幼鳥の白い仮面を被ったかのような奇妙な姿には、思わず噴き出してしまった。「カツオドリ目カツオドリ科。カメラを向けるとじっとにらんでいた。羽毛はすでに白から黒に変わっている(沖ノ神島、1996.6)」。

サキシマスオウノキの奇妙に伸びていく根は何ともユニークだ。「根が成長して板状になる(板根)。仲間川の上流にあり、多くの観光客が訪れる(西表島東部、2005.7.14)」。

生物多様性への脅威を静かに訴える珠玉の写真集である。