貞節な妻の妖しい物語・・・【山椒読書論(233)】
【amazon 『芋虫』 DVD『キャタピラー』 カスタマーレビュー 2013年7月23日】
山椒読書論(233)
『芋虫』(江戸川乱歩著、新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』所収)は、戦傷で芋虫のような体になってしまった男と、その貞節な妻の妖しい物語である。
「このような姿になって、どうして命をとり止めることができたかと、当時医学界を騒がせ、新聞が未曾有の奇談として書き立てたとおり、須永廃中尉のからだは、まるで手足のもげた人形みたいに、これ以上毀れようがないほど、無残に、無気味に傷つけられていた。両手両足は、ほとんど根もとから切断され、わずかにふくれ上がった肉塊となって、その痕跡を留めているにすぎないし、その胴体ばかりの化物のような全身」は「まるで、大きな黄色の芋虫であった」。一方、「このごろめっきり脂ぎってきた」30歳の妻は、「自分のどこに、こんないまわしい感情がひそんでいたのかと、あきれ果てて身ぶるいすることがあった」。
乱歩の倒錯的な世界を垣間見せてくれる作品である。
DVD『キャタピラー』(若松孝二監督、寺島しのぶ・大西信満出演、ジェネオン・ユニバーサル)は、『芋虫』を下敷きにしている。