榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『日記帳』の結びの2行には、本当に驚かされました・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2490)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年2月10日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2490)

我が家のフイリアオキが雨に打たれています。今日のように一日中、雨・雪だと、読書・執筆が捗ります。

閑話休題、『江戸川乱歩作品集(Ⅰ)――人でなしの恋・孤島の鬼 他』(江戸川乱歩著、浜田雄介編、岩波文庫)に収められている『日記帳』は、印象に残る短篇推理小説です。

「ちょうど初七日の夜のことでした。私は死んだ弟の書斎にはいって、何かと彼の書き残したものなどを取り出しては、ひとり物思いにふけっていました。・・・ふと、そこにあった弟の日記帳を繰りひろげてみました」。

「三月九日のところまで読んで行った時に、感慨に沈んでいた私が、思わず軽い叫び声を発したほども、私の目をひいたものがありました。それは、純潔なその日記の文章の中に、はじめてポッツリと、はなやかな女の名前が現われたのです。そして『発信欄』と印刷した場所に『北川雪枝(葉書)』と書かれた、その雪枝さんは、私もよく知っている、私たちとは遠縁に当たる家の、若い美しい娘だったのです」。

「私」は、弟の手文庫の底に大事そうに収められた雪枝からの11枚の絵葉書を発見します。ところが、いずれの文面も恋文らしい感じがしません。そして、雪枝から最後の葉書が来た日の日記に、「最後の通信に対してYより絵葉書きたる。失望。おれはあんまり臆病すぎた。今になってはもう取り返しがつかぬ。ああ」と書かれているではありませんか。

「ふと私は、弟の葉書を出した日付けに不審を抱きました。日記の記録によれば、それは次のような順序なのです。三月・・・九日、十二日、十五日、二十二日、四月・・・五日、二十五日、五月・・・十五日、二十一日、この日付けは、恋をするものの心理に反してはいないでしょうか。たとえ恋文でなくとも、恋する人への文通が、あとになるほど、うとましくなっているのは、どうやら変ではありますまいか」。

本作品の結びの2行には、本当に驚かされました。思いもよらない事実が明かされているからです。