紙の本は消滅してしまうのだろうか・・・【続・リーダーのための読書論(44)】
Kindleの開発者
amazonの電子書籍Kindleの開発者が読書の将来を語っているとあっては、紙の本大好き人間の私としては読まないで済ますわけにはいかない。『本は死なない――Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』(ジェイソン・マーコスキー著、浅川佳秀訳、講談社)には、想像どおり、紙の本は消滅への道を辿り、電子書籍で読書するのが当たり前の世の中になる、進化途中の電子書籍の可能性は無限だ――と、言いたい放題のことが書かれている。「電子書籍を買う人が増えるほど、紙の本を選ぶ人は減っていくはずだ。検索機能などの紙の本にはない利点が多い電子書籍には、一度その便利さを味わったら抜け出せなくなる魅力がある。やがて電子書籍の利点がすべてを凌駕し、紙の本から電子書籍への大移動が起こるときがくるだろう」。
Kindle開発中の興味深いエピソードも記されている。「私がジェフ(・ベゾス)と副社長たちを交えたそのミーティングに参加したとき、ジェフはキンドルの画面上にいったい何行の文章を表示すべきかについてずっと頭を悩ませていた(ミーティングが終わった後にジェフから届いた午前3時のメールにも、行数についての悩みが書かれていたほどだ)」。
電子書籍の可能性と危険性
著者がamazon退社後、入社したGoogleに対する評価は相当なものだ。「現状では、読書の新世界、すなわちReading 2.0の世界を生み出すのはまだ難しいが、実現できる可能性が最も高いのはグーグルだ」。
一方、電子書籍の危険性についても正直に言及している。「古代の書物は悲劇的な運命を辿ったが、電子書籍も同じような末路を辿る危険性はある。たとえばグーグルとアップルが合併して電子書籍が保管されている両者のデータ・センターが結合されたとする。しかし業績が思うように上がらず、とうとう潰れてしまったとしよう。そうなったらデータ・センターと一緒に書籍データもすべて消失してしまうことになるが、そんなシナリオも100パーセントないとは言えない。アマゾンも当面は安泰だと思うが、もしこの先強力な振興企業に吸収されてしまったら、書籍データを保管しているデータ・センターの命の保証はないのだ」。
読書の将来
さらに、読書の将来に対する危機感も表明されている。「今後ますます、想像力を膨らませる必要がないメディアが主流になっていくならば、電子書籍とてテレビや映画、ビデオゲームなどの映像メディアには太刀打ちできないだろう。・・・読書はいまこそ、人間の想像力を駆り立てる本来の姿に立ち返るべきだと私は思う。映画やビデオゲームは収益性や特殊効果の面では本より優れているが、世界に入り込める度合いに関しては、本に勝るものはない。本は読者をその世界の中に誘う。『読む』という行為は、世界の中に身を浸すことだと言ってもいい。一方の映画やビデオゲームは、『見ていないとき』にしか『読む』ことはできない」。著者のこの警告には、全面的に賛成だ。
いずれにしても、紙の本vs電子書籍、電子書籍vsビデオゲームの帰趨を含め、本の将来、読書の将来について目が離せない日々が続く。