ダイヤモンド・モデルを使いこなせば、プレゼンテーションの達人になれる・・・【あなたの人生が最高に輝く時(51)】
MRとプレゼンテーション
MRにとって、プレゼンテーション力、コミュニケーション力は必須である。時間を確保して多数のドクターを対象に行うプレゼンテーションはもちろんだが、日々のMR活動の中で展開される個々のドクターとの面談にも、プレゼンテーション力は必要だ。なぜなら、面談は小さなプレゼンテーションだからである。
私の3分面談
私は、20年に亘ったMR時代、重要なドクターほど多忙であることを踏まえて、面談は原則3分以内に終わらせるようにしていた。もっとも、当日の面談の目的を果たした後、ドクターに時間的余裕がある場合は、面談はもっと長く続くのが常だったが。榎戸は3分以内で面談が終わるということがドクターの頭の中にインプットされていると、ドクターも億劫がらずに気軽に会ってくれるのだ。
ダイヤモンド・モデル
『ビジネスは30秒で話せ!――短く、魅力的に伝えるプレゼンの技術』(ケビン・キャロル、ボブ・エリオット著、高松綾子訳、すばる舎)には、プレゼンテーション力だけでなく、コミュニケーション力も高めるコツが詰まっている。私がMR時代に実行していたプレゼンテーション、コミュニケーションのやり方が理論的に説明されているのに、びっくりしてしまった。
本書の一番の肝は、著者が提唱する「ダイヤモンド・モデル」である。「『ダイヤモンド・モデル』と呼ぶ、シンプルでユニークなモデルを紹介する。自分の言いたいことが必ず伝わるようメッセージを組み立て、そして伝えるのに役立つ非常に便利なツールだ。どんな相手の前でも、どんな長さのメッセージでも大丈夫。大ホールでのプレゼンテーション、電話会議、ビデオ会議の進行役、さらには電話の留守録に至るまで、あらゆる状況で使えるモデルだ。『ダイヤモンド・モデル』は、ただちにみなさんのコミュニケーション能力をアップさせるだろう」。
ダイヤモンド・モデルは、菱形のダイヤモンドが水平に7つに分割されている。1番上の枠は「注意を引く」、2番目は「メイントピック」、3番目は「サブトピックの紹介1,2,3」、4番目は3分割され、左から「サブトピック1」「サブトピック2」「サブトピック3」となっている。5番目は「サブトピックの要約1,2,3」、6番目は「結論」、一番下は「アクションプラン」となっている。1番目と2番目が始めの部分、3番目から5番目までが中の部分、6番目と7番目が終わりの部分を構成している。
「コミュニケーションの達人になるには、自分の考えを明確に述べ、それを証拠を挙げて証明し、さらに聞き手が興味を持つような発想・切り口(コンセプト)で話を色付けする力が必要だ」。「話が論理的になるよう『始め・中・終わり』の順に構成し、話の中間部分を3つのサブトピックに分けて色付けする工夫を、ダイヤモンド形の枠にまとめたものだ。各項目について話す順と量が視覚的にわかるようになっている」。これは、なかなかの優れ物である。
具体的な方法
より詳しい説明を見てみよう。「最初に、聞き手の注意を引いて関心を持たせる。聞き手に関心がなければ、それは聞き手がいないのと同じ。ますは、感情的なつながりを確立しよう。自分自身の話をしたり、聞き手に質問を投げかけたり、驚くような統計を紹介する。皆の意識が向くような話をして、聞き手と自分をつなぐ。聞き手の注意を引いたら、何よりも最初に、話のメイントピック(主要テーマ)、つまり自分がこれから何を話すのかを、ハッキリとした口調で簡潔に述べる。聞き手が推測や想像をしてしまうような言い方はしない。聞き手が今から何を聞くのか、なぜそれが聞き手にとって大切なのかを明確に言い切る。以上がプレゼンテーションの『始め』の部分だ」。
「次に、プレゼンテーションの『中』の部分に移る。つまりメイントピックについて詳しく話すのだが、この部分を3つのサブトピックに分類して話す。そこでまず、各サブトピックを簡単に紹介する。その際、必ず『第1は・・・。第2は・・・。第3は・・・』と番号を付けて述べること。これを怠ると、聞き手がついていけなくなる可能性が高くなってしまう。3つのサブトピックを紹介したら、各サブトピックについて話す。ここが、プレゼンテーションの本質や要点になる部分。各トピックの内容は、証拠を挙げて論理的に証明しなければならない。3つのサブトピックをすべて話し終えたら、聞き手が各トピックの要旨を忘れないように、それぞれをもう一度短くまとめる。ここでも同様に『第1は・・・。第2は・・・。第3は・・・』と必ず番号を打つ。こうすることで、自分と聞き手を同調させ続けられる」。
この段階の留意点を付記しておく。「ダイヤモンド・モデルを使うにあたって最も困難な作業であり、また腕の見せどころでもあるのは、自分の言いたいことすべてをカバーし、わかりやすく聞き手に覚えてもらいやすい3つのサブトピックを選ぶこと」。
「そして結論。プレゼンテーションの『終わり』の部分。全体を通して一体何が言いたかったのか、つまり『始め』の部分で述べたメイントピックを再表明する。ここでもまた、自分が今話したことがなぜ聞き手のメリットになるのかをハッキリ言う。自分の話を聞き手に関連付けるためだ」。
「最後に、アクションプランを提示する。聞き手に次のステップとして何をしてもらいたいのかを述べるのである。アクションプランを示さず、ただプレゼンテーションを聞かせて『ハイ、終わり』では、聞き手が宙ぶらりんの状態になってしまう。これではせっかくのプレゼンテーションも台無しである」。
「話し手が今どこにいて、どこへ行こうとし、どこで結論を出すのか、聞き手はみんなこれを知りたがる。要するに、筋道の立った論理的な話を求めるのだ。だから、このダイヤモンド・モデルに従って話を組み立てよう。より簡潔でわかりやすく、聞き手が納得しやすい話ができ上がるはずだ」。
著者のこの主張は、説得力がある。
ポジティブ・エネルギー・スケール
もう一つ、興味深い「ポジティブ・エネルギー・スケール」についても触れておこう。
ポジティブ・エネルギー・スケールとは、自分が話しているときに、他人がどれだけエネルギーを感じるかを基にして周囲から見た自分の印象を示した物差しである。
5つの枠が作られている。一番上の枠は「オーバー・ザ・トップ!(やり過ぎ)」、2番目の枠は「イン・ザ・ゾーン(最高パフォーマンス)」、3番目は「ニュートラル(平凡)」、4番目は「バッド・デイ(今日は最悪)」、一番下は「バッド・ライフ(人生、最悪)」となっている。
「適度なレベルの情熱を持って熱心に話せば、聞き手や潜在顧客は必ずそれを感じ取って、話し手と会おうとする確率が高くなる。これはビジネスだけでなく、政治、スポーツ、芸能界、そして恋愛にも当てはまる」。
著者は、2番目の「イン・ザ・ゾーン(最高パフォーマンス)」を目指せと言っている。「このグループの人が部屋に入ってくると。その部屋全体がパッと明るくなる。彼らは大きな声でハッキリ話すが、その声は大き過ぎない。しっかりとアイコンタクトを取るが、相手をジーッと見たりはしない。気取らない性格でユーモアのセンスがある。そして笑顔を向ける」。
私のケースは一番上の「オーバー・ザ・トップ!(やり過ぎ)」に該当する。「ここに属するのはエネルギーがあり過ぎると周囲から思われる人。話し声が大き過ぎる、他人の個人領域にまで口を出す、見苦しいほど熱く語り過ぎる」と、著者から酷評されている。反省し、本日から、「イン・ザ・ゾーン(最高パフォーマンス)」を目指すことにした。