コミュニケーションのレヴェルは文章力に規定されるという事実・・・【MRのための読書論(77)】
「まずい原文」と「その改善例」
企画書、報告書、手紙、メール等々、MRが文章を書く機会は、意外と多い。文章力のないMRと、若い時から文章作成能力が身に付いているMRとでは、将来、大きな差がついてしまうことだろう。
『伝わる! 文章力が身につく本――できる人は文章も上手い!』(小笠原信之著、高橋書店)が長期に亘りベストセラーにランクされているのには、それだけの理由――3つの理由――がある。
第1は、なかなか手の届かないような高い目標を掲げていないこと。実用文は、筆者の伝えたいことが相手に正確に伝わればいいと割り切っている。第2は、ステップを踏んできちんと学べば文章力は確実にアップするという信念が貫かれていること。この思いは、著者のジャーナリスト、文章講座講師としての長い経験によって培われたものである。第3は、「主語をはっきり出す」、「具体的・客観的に伝える」、「専門用語は初出時に説明する」、「『~だろう』を多用しない」、「無駄を徹底的に削る」、「『?』『!』を乱用しない」といった80のポイントやノウハウが基本的なものから応用的なものへと順を追って並べられていること。しかも、項目毎に未熟な「原文」と、その「改善例」が具体的に示されていること。これによって、どこをどう直せばよいのかが分かり、そのように改善しなければならない理由が明らかになる。
今すぐに使える具体例
●例えば、「主語と述語を近づける」の「原文」は「証人は容疑者が店員が外の騒音に気をとられている最中に万引きしたのを見たと言った。」、その「改善例」は「店員が外の騒音に気をとられている最中に容疑者が万引きしたのを証人は見たと言った。」となっている。最も関係が深い主語と述語を近づけてやればいいのだ。
●「『副詞と動詞』『形容詞と名詞』を近づける」の原文は「ともあれ困難が予想されるかもしれないが、始めよう。」、「改善例」は「困難が予想されるかもしれないが、ともあれ始めよう。」となっている。修飾語は係る言葉の直前に置くのが最上だ。
●「読点(とうてん)を感覚で打たない」の「原文」は「口はうまいが、行動を伴わない人は尊敬されない。」、「改善例」は「口はうまいが行動を伴わない人は、尊敬されない。」。読点の最大の役割は、一つの文中の関係の深い語句同士をまとめ、関係の浅い語句を切り離すことである。「息継ぎをするところに点を打て」は、間違った俗説だというのだ。
●「漢字とひらがなを使い分ける」の「原文」は「先生に相談した所、『行き詰った時には、考えるのをやめて置きなさい』との事だった。」、「改善例」は「先生に相談したところ、『行き詰ったときには、考えるのをやめておきなさい』とのことだった。」。漢字とひらがなを、ただ何となく感覚的に使い分けるのではなく、「ところ」「とき」「こと」「もの」といった形式名詞、「おく」「みる」「くる」「いく」といった「~て」に続く形で使われる補助用言はひらがなにせよ、と述べている。
●「修飾語句には置く順番がある」の「原文」は「貴重な江戸時代の神保町で見つけた地図」、「改善例」は「神保町で見つけた江戸時代の貴重な地図」となっている。長い修飾語句は係る言葉の遠くに、短いものは近くに並べるのがコツなのだ。
●「敬語をきちんと使いこなす」の「原文」は「先生様がお見えになられました。」、「改善例」は「先生がお見えになりました。」。ここでは、例文を初め、「ご利用になられる」「お買い求めになられる」といった二重敬語に注意を促している。何でも丁重に言えばよいというものではない、基本的な敬語の間違いは、その人の素養が疑われ、信用にも影響する、と手厳しい。
●「カタカナ語を乱用しない」の「原文」は「課員各人がルーチンワークにいかにポジティブに取り組んだかが、課トータルとしてのパフォーマンスアップにもつながる。」、その「改善例」は「課員各人が日常業務にいかに前向きに取り組んだかが、課全体としての成績向上にもつながる。」となっている。不要なカタカナ語は文章の品位を落とすというのだ。
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