榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

時には、企業、社会、国が抱える問題についても考えてみよう・・・【あなたの人生が最高に輝く時(61)】

【ミクスOnline 2016年2月15日号】 あなたの人生が最高に輝く時(61)

大きな視点

自分自身の問題をどう解決していくかはもちろん重要なことであるが、時には、大きな視点から物事を眺めることも必要である。なぜなら、企業や社会、国が抱えている問題は、好むと好まざるに拘わらず、いずれ個々人に大きな影響を及ぼすからである。

日本に押し寄せる変化

自分が変わった方がお得という考え方――日本新時代のキーワード』(三橋規宏・谷口正次・松下和夫・関正雄著、中央公論新社)は、この意味で、企業、社会、国の課題と解決の道を知るのに、恰好の一冊である。

「個人、社会、国家とレベルは違っても、変化をチャンスとして受け止めるか、災いとして受け止めるかでその後の対応の仕方は大きく異なり、その結果も当然ながらまったく違ってくる」。

「日本の前途にはこれまで以上にさまざまな変化が押し寄せている。少子高齢化を伴う人口減少、デフレと1000兆円を超える財政赤字、グローバル化の進展に伴う製造業の空洞化、企業の社会的責任、環境と資源制約、温暖化対策とエネルギー転換など数え上げればきりがないほどだ。これらの変化を現実として重視し、正面から受け止め、味方につけることが必要だ。そのためには、私たち自身も時代の変化に対応して変わっていかなければならない。そうすればこれまで見えなかった新たな世界が拓けてくる」。

「企業の人事担当者が最近の学生を称して口をそろえて言う言葉に一つに『指示待ち人間』がある。面接に当たって、『当社に入って何をしたいか』と問うと、多くの学生は首をかしげてしまう。会社に入れば、上司の指示に従って働けばよいと単純に思っている若者が圧倒的に多いそうだ、高度成長期の学生のように会社に入って『これをしたい、あれに挑戦したい』といった抱負を述べる学生は少なく、上昇志向も高くはない。『指示待ち人間』が増えてきた背景には、日本全体が目標喪失症に陥ってしまったことと無縁ではなさそうだ。国家としての日本が進むべき将来図を描けなければ、個々の学生が自分の将来像を描けないのも不思議ではあるまい。国が進むべき目標を明快に示せば、個々の学生も明確な目標を持って積極的に将来へ向けて発言し行動するようになるはずだ」。

人口減少

少子高齢化による人口減少をどう考えるか。「少子高齢化を伴う人口減少がこれからの日本の社会や経済、さらに社会の仕組みや制度にさまざまな影響を与えることは確実だ。人口増減の栄枯盛衰は国の栄枯盛衰と重なっている。として将来の人口減少を悲観視する見方が増えている。急激な人口減少は決して好ましいことではないが、だからと言って私たちはこの現実を悲観的にのみとらえるべきではない。若者中心の社会は元気があり活力に溢れている。高度成長期の日本がそうだった。だが高齢化社会が沈滞して元気がない社会になるかと言えば、必ずしもそうとは言えない。高度成長期のような行け行けドンドン型の経済発展は難しいが、成熟社会を支える落ち着いた社会経済環境の中で、高齢者の知恵を生かし、質の高い落ち着いた生活を楽しむことは可能である。簡単なことではないが挑戦しがいのある課題である」。人口減少を福となす発想を磨けというのである。

「GDPの規模が大きいことが国民の幸せに直接つながるわけではないということだ。経済規模の大きさよりも生活水準の高さこそが国民の幸せをもたらす。ひらすらGDPの拡大を追い求め、成長信仰の信者だった日本人も、これからは、成長信仰を捨て、成長よりも生活水準の高さの追求こそ大切なのだと考え方を転換させることが大切だ」。「イギリスやフランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国は、人口数も経済規模も日本よりも小さい。だが一人当たりGDPは日本と同程度かそれを上回る国が多い。彼らの築き上げた豊かな生活や優れた文化は世界の多くの国のあこがれになっている。国際政治や外交の世界でも大きな影響力を持っている。GDPが大きいからという理由で世界各国から尊敬され信頼されるわけではない。その国の国家理念、国家目標、文化、生活、科学技術、世界貢献などが優れているからこそ、他国から一目置かれるような存在になれるのである。それが国としての品格であり、2050年に向かう日本が目指すべき方向でもある」。

経済のこれからのエンジン役

化石燃料に代わって、これからの経済活動を支えるエンジン役は何だろうか。「結論を先に言ってしまえばICTである。ICTは巨大なエネルギーを使って自然を切り開き、自然資源を採掘して大量に物をつくり、物的豊かさを目指す技術ではない。快適で、住み心地の良い新しい経済社会への転換を促進させる技術である。人間の労働にたとえれば、筋肉労働から、頭脳(脳・神経系)労働への転換を促す技術と言ってもよいだろう」。「2050年頃にはICT革命がさらに大きく世の中を変え、質の高い生活を支えるためのさまざまな企業、産業を輩出させ、人口減少のマイナス側面を乗り越え、活気のある豊かな成熟社会へ向け歩み出していることを期待したい」。

企業の社会的責任

CSR(企業の社会的責任)についても、提言がなされている。「CSRは本業とは切り離された付け足しのような活動、慈善活動のようなもの、という理解が根底にある。本業とはまったく別に、追加的コストをかけるもの、という意識も伴っている。そのコストについては、企業イメージ向上のための宣伝手段として必要性が正当化される。・・・CSRの本質は、2010年に発行された社会的責任規格のISO26000や、その影響を受けた2011年の欧州委員会のコミュニケーション(政策文書)での定義にあるように、『社会に与えるインパクトに対する企業の責任』であり、ステークホルダーと対話し協働しながら、社会や環境への配慮を事業活動の中に、つまり活動プロセスや商品・サービスの中に統合することである。この『統合』がキーワードで、本業とは切っても切り離せない、不可分一体のもの、という点が一番の基本である」。企業が変われば社会が変わるというのだ。

自分が変わった方が得

「『自分が変わった方がお得という考え方』に立って、難問の一つ一つに新しい視点で向き合うと、これまで考えられなかったような解決の方法、あるべき姿が浮かび上がってくる。それらをつなぎ合わせると、環境に配慮した豊かで元気な成熟社会、別の言い方をすれば、持続可能な社会につながることがわかる。過去の制度や法律、考え方にこだわらず、『時代が変わったので、自分も変わろう』、こんな考え方の日本人が増え、行動することで、2050年へ向かう日本に希望の光が差し込んでくる」。

本書を読み終わった時、一回り大きな人間になっている自分を発見することだろう。自分が変わった方が得という考え方に立ち、時代の一歩先を読み、勇気を持って挑戦していこうではないか。