稗田阿礼は藤原不比等の偽名だという説を、あなたは信じられますか――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その151)・・・【あなたに人生が最高に輝く時(238)】
【読書の森 2024年7月12日号】
あなたの人生が最高に輝く時(238)
●『神々の流竄(るざん)』(梅原猛著、集英社文庫)
あなたは、学校で古事記の作者は誰だと教わりましたか? 確か、教科書には「天武天皇の命で稗田阿礼(ひえだのあれ)が暗誦していたのを、太安万侶(おおのやすまろ)が筆記した」と、書かれていたと思う。それなのに、『神々の流竄(るざん)』(梅原猛著、集英社文庫)の著者は、古事記のプロデューサーは藤原不比等(ふひと)で、稗田阿礼は不比等の偽名だなんて、歴史学者が腰を抜かすようなことを言っている。
不比等といえば、あの大化の改新で活躍し、藤原氏の基礎を築いた藤原鎌足(かまたり)の息子ではないか。その不比等と稗田阿礼が同一人物とは、いったいどういうことだろうか。
この仮説に関しては、さすがの梅原猛もぼろを出すのではないかと、半分は心配しながら、半分は期待しながら読み進んでいくうちに、稗田阿礼は不比等以外ではあり得ないと思い込まされてしまう、これは実に麻薬的な本である。
梅原の『隠された十字架――法隆寺論』、『水底の歌――柿本人麿論』といった著作同様、その力強い構想力に、うっとりとしてしまう。梅原の本はどれも、あたかも上質なミステリのように、謎に挑戦する楽しさを存分に味わわせてくれる。
なお、この説の理解をさらに深めたい向きには、『梅原猛著作集(8) 神々の流竄』(梅原猛著、集英社)に収録されている「記紀覚書――稗田阿礼=藤原不比等の可能性」を薦めたい。