あなたも、雨が好きになるかも――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その217)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(304)】
●『雨の名前』(高橋順子文、佐藤秀明写真、小学館)
雨天は嫌だという人も、『雨の名前』(高橋順子文、佐藤秀明写真、小学館)を手にしたら、雨に対する印象が変わってくると思う。
先ず、全てのページを飾っているカラー写真が素晴らしい。そして、それに添えられた文章が、これまた素敵なのだ。
春の雨として、「甘雨(かんう。草木にやわらかく降りそそぐ、烟<けぶ>るような春の雨)」「催花雨(さいかう。菜の花のころに、花が咲くのを催促するようにしとしとと降りつづく春の雨)」「花時雨(はなしぐれ。桜のころ、しぐれるように降る冷たい雨)」などが紹介されている。
夏の雨は、「青葉雨(あおばあめ。『目に青葉・・・』と愛でられる初夏の青葉を、いっそうつややかに見せる雨)」「狐の嫁入り(晴れているのに、パラパラと気まぐれに降る雨のこと)」「初夕立(はつゆうだち。その年初めての夕立)」などが挙げられている。
秋の雨としては、「霧時雨(きりしぐれ。ちょっと降ってはすぐに止む時雨のような霧雨)」「秋霖(しゅうりん。秋の長雨、秋の霖雨のこと)」「蕭雨(しょうう。『蕭』は、もの淋しい、の意で、しとしとと降りつづくもの淋しい秋の雨)」「冷雨(れいう。冷え冷えと降る晩秋の雨)」などが説明されている。
冬の雨になると、「鬼洗い(大晦日に降る雨のこと)」「風花(かざはな。初冬の晴れた空、風上の降雪地から、風に乗ってこまやかに舞い降りてくる小雪や小雨のこと)」「北しぶき(北から吹きつける、凍えるような冬の雨)」などが載っている。
雨の説明文以外の文章に目を移すと、例えば、「女二人の嵯峨野」は、「竹藪にこまかい雨が降りそそぎ、一本いっぽんの竹の緑をいやましに明るくしていった。日本画の絵筆をおもわせる雨のやわらかさである。叔母と二人、京都の嵯峨野を歩いたことがある。・・・嵯峨野の雨は頑なになりがちな女たちの心をぬらしていた」といった具合である。
また、「雨を見る人」は、「雨が好きな人は、雨を見ている人だ。窓から見ていられる雨なら、私も好き。きれいさっぱり雨に洗い流して、また新しく何かを始められるだろう、そう思いながら何もしないで、雨と、雨の向こうの景色を見ている、そういう時間がつくづくほしい」と綴られている。
近年の頻繁なゲリラ豪雨が、日本の雨の風情を洗い流してしまわないことを願うや切。