ムーミンは、意外に辛口の童話なのだ――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その220)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(307)】
●『たのしいムーミン一家』(トーベ・ヤンソン著、山室静訳、講談社文庫)
以前、テレビで見たことのあるアニメ―ションの「ムーミン」(DVD-BOX『楽しいムーミン一家』<Victor Entertainment>)の世界を知りたくなって、ムーミン・シリーズの一冊、『たのしいムーミン一家』(原題は『魔物の帽子』、トーベ・ヤンソン著、山室静訳、講談社文庫)を読んでみた。
著者自身の手になるムーミンたちが登場する挿し絵は、アニメーションと同じように、ほのぼのとした印象を与えるが、文章のほうは結構辛口である。例えば、「こんなひにくをいったのは、スナフキンにとっては、どうしてみんなが持ちものをやたらにほしがるのか、わけがわからなかったからです」、自分の人生を嘆くヘムレンさんに対し、「『いきるってことは、平和なものじゃないんですよ』と、スナフキンは、まんぞくそうにいいました」、持ち物の交換を持ちかけるスニフに対し、「『おまえが死んでからね』と、ムーミントロールはいいました」、「『見てくれ、わしのねどこはずぶぬれだぜ』。こうヘムレンさんがいっても、『そりゃおきのどく』といったきり、スノークはねがえりをうって、むこうをむいてしまいました」、「すると、ヘムレンさんのむねには、ふくしゅうしてやりたいような気持ちが、むらむらわきあがってきました」、「『たいしたもんだ。じつにりっぱなものですよ』と、スノークはひにくをいいました」、「ヘムレンさんは、まだなにかいおうとしましたが、スナフキンが、そのむこうずねをけとばしました」、「ムーミンパパは、ふつうの子どもとはすこしちがっていて、だれにも愛してもらえなかったのでした。大きくなってからも、おなじことでした。あらゆる意味で、おそろしい日々をおくってきたのです」――といった具合である。こういった描写が、この童話に陰翳を添え、奥行きを与えているのだろう。
一方、ムーミンたちが暮らすムーミン谷が危機に瀕すると、「(ムーミン)パパは、きっぱりといいました。『それじゃあ、われわれも武器をとらなくちゃならん。それから、家具をひっぱっていって、戸口をしっかりとふさぐのだ。そんな大きいモランなら、たしかにきけんかもしれん』」、「ムーミンパパは、こういったのです。『われわれは、あくまできみたちをまもってやるからな』」――と、力を合わせて立ち向かうのである。
いろいろな要素から成り立っているムーミン物語は、著者が考え出した架空の動物たちが繰り広げるユーモア溢れるファンタジーの世界なのだ。因みに、私が一番好きな登場キャラクターは、三角の帽子を被った、孤独と自由を愛するスナフキンである。