榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「ムーミン」の作者、トーベ・ヤンソンの島暮らしの記録・・・【情熱的読書人間のないしょ話(176)】

【amazon 『島暮らしの記録』 カスタマーレビュー 2015年9月22日】 情熱的読書人間のないしょ話(176)

埼玉・日高の巾着田のヒガンバナの大群落は、想像を大きく超える赤一色の別世界でした。ヒガンバナの赤い花は、やはり彼岸にふさわしいと再認識した次第です。

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閑話休題、『島暮らしの記録』(トーベ・ヤンソン著、冨原眞弓訳、筑摩書房)は、「ムーミン」シリーズの作者、トーベ・ヤンソンの島暮らしの記録で、彼女の知られざる日常が綴られています。

トーベと母・ハム、親友のトゥーティ、そして猫のプシプシーナが、四方を水平線に囲まれた小さな孤島で、マイペースに気ままに自然と共に暮らす様が描かれていきます。

彼女たちはいろいろな岩礁群を当たった末に、クルーヴ島(ハル)に辿り着きます。「ここに住もうと決めた。面積6、7千平方メートルの島は、縁を岩山で囲まれ、中央に溜り水をたたえる環礁である。干潮時に溜り水は閉じた湖になる」。

「(83歳の)ハムは早朝に起きだし、テントの外のベンチに坐る。太陽はまだ低く溜り水を這い、朝露にきらめく浜辺の野原を照らしだす。物音ひとつしない。彼女は海水の桶に両足を浸し、長い髪に櫛を入れる。そして一日が始まる」。

「それぞれが自分の場所にへばりつく。ハムは小屋の裏でデコイを彫り、わたしは岩山の窪地で薪を挽き、トゥーティは島をあてもなくさまよっていたかと思うと、何時間も瞬きもせずに立ちつくす。彼女がなにをしているのかは知っている。また仕事にとりかかったのだ。銅版と単色淡彩だ」。

「あれやこれやに疲れると、わたしはしばらく木挽場にこもる。木挽場の発想は単純明快だ――気兼ねなく木片を挽いたり割ったり、だれにも干渉されず、いい匂いがするうえ、ようやく自分の思いどおりになる」。

ムーミンの世界を期待した読者は少しがっかりするかもしれませんが、トーベの私生活を知りたい向きには貴重な記録と言えるでしょう。