一流MRへの一番の早道・・・【MRのための読書論(3)】
一流MRの模倣
『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』(山本藤光著、プレジデント社)には、一流MRへの一番の早道が明快に示されている。この本は一流MRを目指す者にとって必読の書であるが、製薬企業の営業部門、人材育成部門の幹部にも重要なヒントを与えてくれる。
書名にある「暗黙知」というのは、ハンガリーのマイケル・ポランニーが提唱し、野中郁次郎が日本に導入した概念である。MRの世界で言えば、優秀MRが経験や工夫を通じて身につけた個人的なスキル、ノウハウで、文章、図表やマニュアルでは表現しきれないもの――ということになるだろう。
営業の生産性を上げる方法を模索していた当時の日本ロシュ(現・中外製薬)は、優れた「暗黙知」を持つ課長6名とMR18名の計24名を全国から召集し、野中郁次郎の表現を借りれば「名人芸移植プロジェクト」ともいうべき「SST(Super Skill Transfer)プロジェクト」を発足させたのである。この本ではこのプロジェクトのトライアル・アンド・エラーの連続であった舞台裏も包み隠さず述べられているので、読者は臨場感を持って追体験することができる。
「個人知」を「組織知」に変えることを目指したこのプロジェクトは、具体的には下記の手順で進められた。
①全国の第一線から厳選した優秀MRを引き抜く。
②その優秀MRを一定期間、レヴェル・アップさせたい課に3MRをチームとして送り込む。
③優秀MRが平均的なMRに「暗黙知」を直接伝授し、身体に刷り込む。
④平均的なMRが刷り込まれた「暗黙知」を自然に発揮できるようになるまで注入し続ける。
⑤その結果、ターゲット課の営業力がレヴェル・アップし、営業の生産性が向上する。
――着実にこれらの手順を踏むことによって、この大胆・過激なプロジェクトは見事な成果を収めたのである。
一流MRを模倣することが一流MRへの一番の早道だからといって、模倣するのは単なるスキルやノウハウではない。●ドクターのニーズを徹底的に探る方法、 ●ドクターのニーズを熟知し、最新の学術知識を身につけて、ドクターと話し込む技術、 ●ドクターの満足度を向上させようという熱意と工夫――これらをひっくるめて模倣することが重要なのだ。
欧米の一流MRの凄さ
『プロフェッショナルMRの条件』(植田南人著、医薬経済社)には、国内だけでなく欧米のMR事情にも通暁している著者の卓見がちりばめられている。この本は、「医薬経済」誌に長期連載中の「OUTLOOK:欧米のMR事情」からの抜粋に加筆修正されたものである。啓発されること、知的刺激を受けることが多く、私などは連載の第1回から欠かさずコピーをファイルして、座右の書としてきたのである。
「成功の秘訣は”感謝の気持ち”」、「医師の心に残るディテーリング」、「成功するMRに共通する基本5カ条」、「第一印象を大事にする」、「会社が合併しても生き残れるMRになる」、「小さな企業のMRでも差別化で勝負」、「MRの4つの階級」といった内容からも分かるように、目標を持ち、挫けそうになる自分を駆り立て、考え、行動する、そういう「目標達成意識」の高いMRにとって、この本は親身な心強い味方となってくれるだろう。
弱者への共感
仕事ができるMRであると同時に、病気で悩んでいる患者のことをいつも念頭に置いて仕事をするMRであってほしいと思う。
社会派推理小説という分野を切り拓いた松本清張の作品はいずれにも弱者への共感が込められている。MRには、患者の深い哀しみが伏線となっている長編の『砂の器』(松本清張著、新潮文庫、上・下巻)を薦めたい。長編は苦手だという向きには『松本清張傑作短編コレクション』(松本清張著、宮部みゆき編集、文春文庫、上・中・下巻)がある。「弱い者に対する姿勢が、とても優しい人だったと思う。・・・清張さんが苦労人だったからだと思うんです」と語る宮部みゆきの道案内で、上質の推理小説の醍醐味を味わうことができる。
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