榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

一流MRが成功への階段を上る時・・・【MRのための読書論(19)】

【Monthlyミクス 2007年7月号】 MRのための読者論(19)

秘密の方程式

読む前にパラパラッとページをめくっただけで、「これは凄い本だ」と直感することがあるが、『ビジョナリー・ピープル』(ジェリー・ポラス、スチュワート・エメリー、マーク・トンプソン著、宮本喜一訳、英治出版)は、正にそういう一冊だ。読んでいて、読後に書き抜こう、参考にしよう、実際に試してみようと思う箇所に出合うと、そのページの端(その箇所がページの右半分にある場合は上の端、左半分にある場合は下の端)を折る癖があるが、407ページのうち52ページの端を折ってしまったことからも、この本の凄まじさが分かると思う。この書は、成功を築き続けるための秘密の方程式で埋め尽くされている。

ビジョナリー・ピープルの3つの要素

ビジネス書の定番となっている『ビジョナリー・カンパニー』の著者が、今回、テーマをビジョナリー・カンパニーからビジョナリー・ピープル(成功を築き続ける人たち)に移した背景が、ネルソン・マンデラを例に引いて説明されている。

南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃という情熱を燃やし続けたマンデラが、26年に亘る投獄生活中も、不屈の魂で重労働に耐え、転向を拒否し続け、釈放されたのは、実に71歳の時であった。そして、その後も、衰えることのない情熱を赤々と燃やし、ついにアパルトヘイトの撤廃を勝ち取るのである。

マンデラのように長期的に成果を上げ続ける人たちの秘密を突き止めるために、ジャック・ウェルチ、ビル・ゲイツ、コンドリーザ・ライスなど世界中の200人以上に行ったインタヴューのエッセンスがこの書であるが、著者は、ビジョナリー・ピープルとはどんでもない失敗や損失、そして辛い失望の経験の持ち主でもあるという事実に驚いている。彼らは困難な課題に対しては、一歩後退して二歩前進、時には二歩後退して一歩前進を繰り返している。そして、思いどおりにいかないことから逆に役に立つ教訓や知識を手に入れ、そして驚くべき回復力を、つまり逆境から立ち直る能力を発揮する。彼らはただ前向きに考えているだけではない。挫折が自分自身の失敗のせい、あるいは単なる不運のせいのどちらであっても、その時の感情を乗り越えて、対処し前進する力を駆使する。また、自分の置かれた環境を他人の責任にすることもない。逆に、自らの意識をさまざまな活動に集中させて、問題の解決に取り組んでいく。

ビジョナリー・ピープルの本質は、3つの要素に集約することができる。すなわち、何が我々の生きがいなのか(定義)、そうしたことをどのように考え、どのように自分の時間を情熱に捧げればよいのか(思考)、そして、それらを達成するためにはどのような取り組み方をすればよいのか(行動)の3つだ。この際、「情熱を燃やし続けること」と「今日から明日へと日々前進を続けること」が、成功を勝ち取り、維持し続ける鍵となる。

一流MRの4つのディテーリングスキル

MRのための営業心理学』(佐藤龍太郎著、エルゼビア・ジャパン)は、「ミクス」に連載されたものがまとめられているが、コンパクトな一冊に「気分良く営業するためのスキル」、「もっと楽に信頼関係を作るスキル」、「営業を楽しみながら科学するスキル」、「最高の自分でいるためのスキル」がギュッと詰まっている。

『ビジョナリー・ピープル』がインタヴューを基にしているのに対し、こちらは神経言語プログラミングという「成功を収めるためのスキルと科学」がベースとなっており、「自分がしてもらいたいことを相手にせよ」との基本精神が貫かれている。

「最高の製品とは営業パーソンその人」、「医師の反論は『買ってあげたいから、もっと納得できる理由を示してよ』という催促」、「クロージングは『自信と情熱』」、「ボス・マネジメントとは、上司とWINーWINの関係を作るためのスキル」、「話の印象は、93%がボディランゲージと声の調子で決まる」、「人は必要なもの(ニーズ)ではなく、欲しいもの(ウォンツ)を買う」、「画一的な製品説明ではなく、医師が重視している処方観に合うように、話す内容、順番、言い方を工夫する」、「他社MRの動きを知る」、「優秀になりたければ、優秀なフリをしろ」といった秘訣が満載されているので、手元に置きたい本である。