相対性理論と量子力学の融合の先の世界はどうなっているのだろう・・・【MRのための読書論(82)】
宇宙の不思議
『重力とは何か――アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』(大栗博司著、幻冬舎新書)は、書名は素っ気ないが、内容は豊饒である。日々、仕事に追われているMRも、たまには宇宙の不思議に思いを馳せてみよう。
本当に難解か
この本の魅力は3つある。魅力の第1は、難解で鳴るアインシュタインの相対性理論が分かり易く説明されていることである。特殊相対性理論も一般相対性理論も、これまで繙いた本の中で、この著者の解説が一番、明快である。
魅力の第2は、相対性理論より難しいとされる量子力学が理解し易く説明されていることだ。
物理学者の究極の夢である統一理論を見出すには、マクロの世界を扱う相対性理論と、ミクロの世界を扱う量子力学を融合する必要がある。魅力の第3は、この宇宙の根源を説明する究極の統一理論の最も有力な候補である超弦(超ひも)理論が、これまた分かり易い譬えを用いて説明されていることである。
物理学の素人の私でも理解できたのは、著者の、「本書を書くときに思い浮かべたのは、卒業以来会っていない高校の同窓生でした。私とは違う道に進み科学からは遠ざかっているものの、好奇心は相変わらず旺盛で、筋道だてて説き起こしていけば理解してくれる。そんな友人に30年ぶりに再会して、私が大学で勉強し、大学院で研究を始め、今日まで考えてきたことを語るつもりで書きました」という姿勢のおかげだろう。そして、理論や実験に果敢に取り組んできた科学者たち――万有引力のアイザック・ニュートン、電磁気力のジェームズ・クラーク・マクスウェル、相対性理論のアルベルト・アインシュタイン、宇宙膨張説のエドウィン・ハッブル、アインシュタイン理論の破綻を証明したロジャー・ペンローズとスティーヴン・ホーキング、量子力学のリチャード・ファインマン、超弦理論の南部陽一郎、ジョン・シュワルツ――の発見に至る苦節と栄光の息詰まるドラマが、私たちの理解を手助けしてくれる。
物理学は、理論的な予言を実験で検証し、実験で見つかった新事実を理論的に説明することで進歩してきたのである。
統一理論への道
「ニュートン力学とマクスウェルの電磁気学の矛盾を特殊相対論で解決し、ニュートン理論では説明不能だった重力現象を一般相対論で乗り越えたのが、アインシュタインです。しかしそのアインシュタイン理論も、ブラックホールや初期宇宙の特異点といった極限状況には通用しない。そのため現在では、アインシュタイン理論を乗り越える新たな重力理論が提案されています」。すなわち、「宇宙の始まりでは空間が極限まで押し潰されているので、重力だけでなく、ミクロな世界の理論も同時に必要になります。宇宙の始まりの謎を解くには、アインシュタイン理論の限界を乗り越え、相対論と量子力学の2つの理論を統合しなければいけない。その先に、自然界のすべての現象の基礎となる究極の統一理論があると期待されているのです」。
現在の宇宙論では、ビッグバンの直前に、10のマイナス36乗秒からマイナス33乗秒というごくごく短時間のうちに、宇宙が10の78乗倍にも膨れ上がるという「インフレーション」と呼ばれる急膨張をしていたという考えが主流となっている。この理論は、1981年、日本の佐藤勝彦とアメリカのアラン・グースがそれぞれ独立に提唱したものである。
現時点で分かっている素粒子には、クォーク、光子、電子、ニュートリノなど多くの種類があるが、これらの素粒子は、物質のもととなるフェルミオンと、その間の力を伝えるボソンに大別できる。陽子や中性子の中にあるクォークはもちろん、電子やニュートリノも物質を構成するフェルミオンの一種であり、光子やヒッグス粒子は力を伝えるボソンの一種である。
著者自身の研究対象である超弦理論が目指しているのは、「宇宙という玉ねぎに、それ以上は皮をむくことのできない『芯』があることはわかっていますから、それを説明する最終的な基本法則も必ずある。その発見が、超弦理論が見据えるゴールです」と、著者は闘志を燃やしている。
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