榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

網野善彦を知ると、日本の歴史が違って見えてくる・・・【山椒読書論(23)】

【amazon 『日本の歴史をよみなおす(全)』 カスタマーレビュー 2012年3月29日】 山椒読書論(23)

網野善彦という歴史家がずっと気になっていたが、今回、漸く、その独自の歴史学・民俗学に触れることができた。

日本の歴史をよみなおす(全)』(網野善彦著、ちくま文庫)には、『日本の歴史をよみなおす』と『続・日本の歴史をよみなおす』が収められている。

網野の視点のユニークさは、「文字について」「貨幣と商業・金融」「畏怖と賎視」「女性をめぐって」「天皇と『日本』の国号」「日本の社会は農業社会か」「海からみた日本列島」「荘園・公領の世界」「日本の社会を考えなおす」という章立てからも窺えるだろう。

どのテーマでも、私たちが長らく親しんできた従来の正統派歴史学とは全く異なる独得の見解が示される。例えば、「畏怖と賎視」はこのように語られる。一遍(いっぺん)上人の「『一遍聖絵(ひじりえ)』はよく知られているように、他の絵巻物と比べて、特異といってもよいほどたくさんの非人や乞食(こつじき)を登場させ、描いています」、「『一遍聖絵』は、一遍の教えによる、悪党・非人等々の人びとの救済を、ひとつの重要なテーマとして語ろうとしたことは間違いない、と思うのであります」、「浄土宗や一向宗、(一遍の)時宗(じしゅう)にせよ、日蓮宗にせよ、また禅宗や律宗にせよ、いわゆる『鎌倉新仏教』は、悪人、非人、女性にかかわる悪、穢れの問題に、それぞれ、それなりに正面から取り組もうとした宗教だったといってよいと思います。それが結果的には16、17世紀までに、世俗の権力によって徹底的に弾圧されたり、骨抜きにされていく経緯のなかで、日本の社会のなかに、被差別部落や遊廓、さらには『やくざ』つまり非人や遊女、博奕打に対する差別が定着していくことになっていくのです」。「さらに問題を広げてみますと、商人や手工業者、芸能民の問題、さらに遊女の問題と切り離しがたく結びついた問題をふくんでおります」というように、次のテーマに有機的に繋がっていくのである。

「これまで『常識』とされて、いまも広く世に通用している日本史像、日本社会のイメージの大きな偏り、あるいは明白な誤りの根はまことに深いものがあり、これを正すことはわれわれが現代を誤りなく生きるためには急務である」という著者の熱い思いが、ひしひしと胸に迫ってくる。