小学生の作文にひれ伏そうと呼びかける実践的な文章レッスン・・・【山椒読書論(41)】
『縦横無尽の文章レッスン』(村田喜代子著、朝日新聞出版)は、よりよい文章を書きたいと願っている人には役に立つ実践的な書であるが、文章を書くことに思い入れを持たない人にとっては宝の持ち腐れになるだろう。
著者が実際に大学で担当しているユニークな文章講座が、そのまま本になっているので、講義を受けている学生の気分になってしまう。
「小学生の作文にひれ伏そう」と、先ず小学生の作文がテクストとして取り上げられるのだから、度肝を抜かれる。
そして、「面白がって、自由に、大胆に、冗談まじりに、好きなようにやってみよう 間違っても、しかつめらしくならないで」、「真っ直ぐな、素直な文章ばかり書いていないか?」、「さあ、大胆に、冗談まじりに、一所懸命に、理屈を捏ねてみよう」と講義が続く。
「筋の通る文章と筋の通らない文章」について、著者は、「文章講座の眼目は良い文章を書けるようになることだ。そこにはいろいろ関門がある。正しい文法、言葉の選び方、テーマの見つけ方、構成の仕方、という具合。しかしそんなに小難しく仕分けして考えなくても、文章で一番大事なことはまず筋がきちんと通っているかどうかということだ。ここでいう筋とはミステリー小説や恋愛映画のストーリィとは違うのだ。文章の筋を通すというのは、論理的であるということ。きちんと理屈が通って論理的であるということだ」と断言している。
最後の授業「書く前に考えること 書き終えて読み直すこと」で、「① テーマをどう掴むか、② 文体をどう作るか、③ 書く前は徹底的に調べる、④ まず自分の目と耳で推敲する、⑤ 文章の中に空白はないか、⑥ 自分の癖を知る」ことを勧めている。
上記①について、「テーマを考えるより、自分が書こうと思う話のイメージを大掴みした後で、プロットというものを作ればいいのだ」、②について、「書くときは自分がどんな語調でしゃべるか、自分の口で試してみよう。文体などとしかつめらしく考えると、内容と外れた宙に浮いたような言葉が出て来るのだ」、③について、「私は何か書くときはとにかく本、インターネット、知人などとあらゆるところから題材に関連するものを収集する」、「知識欲と好奇心を手放さないこと」、④の「耳で推敲」について、「昔から多くの人々がおこなった音読だ。はっきりと他人に聞かせるように声に出して読み上げる」、⑤について、「文章は書かれているけれど、内容は無いに等しいからだ。そんな所を思い切って削除する」、⑥について、「この癖は簡単に発見できる。好んで観念用語を使うので、自分以外の人間が読めば一目瞭然にわかるのだ。良い、と思っているのは自分だけで、誰が読んでも違和感を覚える」、「うまく出来なかったときは、自分の人格を損なうものではない。注意されても傷つくことはいらないのだ。指摘を受けた箇所を正し、出来る限りの書き直しをする。それでいい」――との著者のアドヴァイスが身に沁みる。