榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

江副浩正は正直な人だと思う・・・【山椒読書論(142)】

【amazon 『リクルート事件・江副浩正の真実』 カスタマーレビュー 2013年2月21日】 山椒読書論(142)

正義感の強い年下の友人から薦められた『リクルート事件・江副浩正の真実(改訂版』(江副浩正著、中公新書ラクレ)を読んで感じたのは、江副という人は正直な人だなということだ。

本書は、リクルート事件の報道発生から判決までの足掛け15年に亘る出来事を、江副の立場からまとめたものである。

任意の取り調べと、逮捕から保釈まで113日間の取調室における検事とのやりとりは生々しい。

任意の取り調べ――「検事は突然机を叩き、大声を上げた。『特捜の捜査がどんなものか見せてやる! 捜査を長引かせているのはおまえだ!』」、「検事は苛立ちを抑え切れぬ様子で『検事は独任官庁だ。俺が逮捕しようと思えばいますぐできる。そのような態度をとっていると逮捕するぞ!』と、取調室の窓ガラスが震えるほどの大声で怒鳴った」。

拘置所での取り調べ――「拘置所の建物に入ると、関所のような所があった。そこで、財布、鍵、時計などの所持品は、『領置する』と取り上げられた。丸裸にされて、10人ほどの看守が見ているところを歩かされた。そのあと四つん這いの姿勢にされた。そして、突然肛門にガラスの棒を突っ込まれて、棒を前後に動かされた」、「私の正面に座るやいなや、検事は大声で言った。『お前の家のガサ入れで何も出なかった! 病院にもブツ(証拠物)はなかった! どこに隠したんだ!』『どこにも隠していません』『バカヤロー! 嘘をつくな!』」、「私は取調室で壁に向かって立たされた。・・・『立てーっ! 横を向けっ! 前へ歩け! 左向けっ左っ!』壁のコーナーぎりぎりのところに立たされた私の脇に立って、検事が怒鳴る。「壁にもっと寄れ! もっと前だ!』鼻と口が壁に触れるかどうかのところまで追いつめられる。目をつぶると近寄ってきて耳元で、「目をつぶるな! バカヤロー! 俺を馬鹿にするな! 俺を馬鹿にすることは、国民を馬鹿にすることだ! このバカ!』と、鼓膜が破れるのではないかと思うような大声で怒鳴られた。鼻が触れるほど壁が近いので、目を開けているのは非常につらい。目がかすみ、耳はぼうっとしてくる。『目を開けていろ! 動くな!』」、「取調室の窓側で、私は検事と向き合う形となった。『俺に向かって土下座しろ!』検事は私に殴りかからんばかりの剣幕であった。恐怖心から抵抗できず、私は屈辱的な思いで床に座った。命じられるままに、検事に向かい手をつき、頭を下げた。そのような姿勢を続けているうちに、私は検事のマインドコントロール下に入っていった」。取り調べは密室で行われるので、江副が主張しているように、取り調べ状況の全てが可視化されるべきだと強く感じた。

「私はさして才能のある人間ではない。甲南高校時代、成績は中の下。褒められたのは3年間皆勤賞をもらったぐらいである。東大に同格したときには担任の石井義仁先生に『まさかおまえが東大に合格するとは思わなかった』と言われた」、「一方で後に続く優秀な社員に追われてもいた。私は常に自らもっと学ばなければならない、成長しなければならないという強迫観念に駆られていた。私は絶えず緊張していて孤独でもあった。多くの人と交わることで、学ぶと同時に、乞われるままに多額の政治献金を行い、心のバランスをとっていた。私は『リクルート時代、精一杯の背伸びをして、道を踏み外してしまった』と、いまになって深く反省している」と、正直に語っている。