榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自己実現の達人・竹内均に学ぼう・・・【山椒読書論(365)】

【amazon 『人生を最高に生きる私の方法』 カスタマーレビュー 2013年12月28日】 山椒読書論(365)

竹内均(ひとし)という人は、明快な考え方を明快に表現する、誠に珍しい人である。

人生を最高に生きる私の方法――挑戦を続けよ! そして最良の人生を築け』(竹内均著、三笠書房。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)には、自己実現のためのヒントがぎっしりと詰まっている。

理想の人生とはどういうものかと長いこと考え続け、辿り着いた結論が、①自分の好きなことをやり、②それで食べることができ、③しかも、それが他人のためにも役立ったとして、他人から褒められるような人生――だと述べている。一言で言えば、自己実現の人生である。

竹内は正直な人である。自分の考え方の独創性を強調するあまり、誰々から影響を受けたというようなことには触れない人が多いものだが、この人は違う。寺田寅彦、新渡戸稲造、渋沢栄一、サミュエル・スマイルズ(明治期の青年たちを奮い立たせた『西国立志編』の著者)などから影響を受けたことを、むしろ誇らしげに公言している。

実は、ここに竹内の考え方・生き方の秘密が隠されているのである。地球物理学という専門分野で彼がいかなる業績を上げたのか、私のような門外漢には知る由もないが、彼の人生論などを読むと、何が何でも独創的な考えに固執するというタイプではないことが分かる。一方に、しかめっ面をして人生とは何ぞやと悩み続け、漸く臨終の床で人生の意味に気づく哲学者がおり、もう一方に、他人のアイディアも長所も全て頂戴してしまう模倣の達人がいるとしたら、あなたはどちらに軍配を上げるだろうか。

竹内は、データの断片と断片を結合させる能力を最も重視し、この能力を構想力と呼んでいる。構想力とは、重要な意味や効果を生むようにデータを関連づける能力で、これが欠けていると、どんなによい発想も発見や発明に繋がっていかない。この構想力の典型として、彼はソニーのウォークマンの開発例を挙げている。発見や発明というのは、新規の物質を見つけだしたり、新技術を完成させることだけとは限らない。既知の物質や技術と、物質・技術に限らず何物かを結びつける逞しい構想力が成功を呼び込むケースのほうが、むしろ多いのである。研究開発だけでなく、情報収集活動においても、入手した情報(データ)の小さな断片を組み立てることによって、真実にどれだけ接近できるかが、成否の鍵となる。人生に対する考え方も、また然りである。

竹内の生き方に決定的な影響を与えたカール・ヒルティ+竹内流の考え方・生き方の一端を見てみよう。
●準備不足や体の調子、気分などを口実にせず、直ちに仕事に取りかかれ。
●一番大切な部分から手を付け、つまらぬ完璧主義に陥るな。
●いつくかの仕事を交互に進めることで、効率を上げよ。
●自分の仕事時間の原価計算をしてみよ。
●見栄を張って、人を見抜く目を曇らせるな。
●酒はだらだらと飲むな。

ヒルティの「幸福論」から私が学んだ人生のヒント・仕事の知恵――自分をもっと大きくする生きかた』(竹内均著、三笠書房。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)では、ヒルティの『幸福論』を解説しつつ、自分自身の考え方・生き方を述べている。