キューバ独立革命指導者の手になる子供たちのための雑誌・・・【山椒読書論(395)】
これまで知らなかったことを知る、これは読書の喜びの最たるものである。この意味で、『黄金時代』(ホセ・マルティ著、加藤恵子訳、創英社)は貴重である。知るチャンスの少ないラテン・アメリカの世界を垣間見ることができるからだ。
著者のホセ・マルティ(1853~1895年)は、スペインからのキューバ独立革命の闘士であり、ジャーナリスト、文学者であった。フィデル・カストロ(1926年~)やチェ・ゲバラ(1928~1967年)が私淑した革命指導者であるが、子供たちのための単独執筆の雑誌「黄金時代」を刊行する。
「『黄金時代』を読むみなさんへ」で、「この雑誌は、男の子のためのものです。そして、もちろん、女の子のための雑誌でもあります。女の子たちがいなければ、太陽がない土地のように人は生きられません。子供は働かなければなりません。前進しなければなりません。学ばなければなりません。強くならなければなりません。美しくならなければなりません。子供は、たとえ見た目が醜くても、美しくなることが出来るのです。善良で、聡明で、きちんとしている子供は、いつだって美しいのです。しっかりとした体で、かわいい手に花を持って女友達の所にやって来る時ほど男の子が美しいことはないのです。いじめられないように妹の手を引いてあげる時、男の子は最も美しいのです。そんな風にして、男の子は成長し、巨人のように見えてくるのです」と語りかけている。
例えば、雑誌の第1号の「3人の英雄」では、ラテン・アメリカの独立運動の3人の指導者――シモン・ボリヴァル(1783~1830年)、サン・マルティン(1778~1850年)、ミゲル・イダルゴ(1753~1811年)――が紹介されている。
「ラテンアメリカにおいては、解放以前は、重荷を背負ったリャマのように、人々は生きていました。その重荷を取り払うことが必要でした。さもなければ、死が待っていたからです」。
「サン・マルティンは南アメリカの解放者です。アルゼンチン共和国の父であり、チリの父でもあります。・・・奴隷状態を黙って見過ごせない、そんな人もいます。サン・マルティンは見逃せませんでした。そして、チリやペルーへ解放のために出陣しました。・・・これらの、巨人のような建国者たちについて考える時、心は優しさで満たされます。彼らは英雄です。自由な国を作るために戦った人々、あるいは、偉大な真実を守るために、貧困と不運に苦しめられた人なのです。野望のために戦う人、他の国を奴隷にするために戦う人、より多くの支配を持つために戦う人、他の国からその土地を奪うために戦う人々は英雄ではありません。犯罪者なのです」。過去も現在も、英雄は少なく、犯罪者のいかに多いことか。
第2号の「いたずらネネ」に、こういう一節がある。「パパは遠くにいます。彼女のために働くために遠くにいるのです。娘がきれいな家にいられるように、日曜日には上品なお菓子を食べられるように、娘に白い服と青いリボンを買うために、パパが死んでしまったら、(母を亡くした)『愛する娘』がこの世に何も持たないで残されることのないように、お金を少し蓄えようと働いているのです。かわいそうなパパは『愛する娘』のために家から遠くで働いているのです」。
この本の挿し絵は、どれも素晴らしいが、父の留守中に、父から触ってはいけないと言われている古い大きな本をネネが眺めるシーンを描いた挿し絵は、頬擦りをしたくなるほどかわいい。「何たることでしょう! ネネを待っているかのように、古い本がネネの椅子の上に開いたままになっています。完全に開いたままに。ネネは一歩一歩、ひどく真剣に本に近づきます。脊中で手を組んで歩いて行きます。人が真剣に考え事をするときのようです。何が何でもネネは、その本にさわりません。ただ見るだけです。ただ見るだけ。パパは触ってはいけないとネネに言っていたからです」。
第4号の口絵の「おはよう、ママ!」も、母子の仕種が微笑ましく、心がほのぼのとしてくる。