榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

文化大革命が庶民に与えた惨禍を実感させる中国映画・・・【山椒読書論(413)】

【amazon DVD『芙蓉鎮』 カスタマーレビュー 2014年2月12日】 山椒読書論(413)

芙蓉鎮(ふようちん』(DVD『芙蓉鎮』<謝晋監督、劉暁慶、姜文出演、紀伊國屋書店。販売元品切れだが、amazonなどで入手可能>)は、多くの中国人が辛酸を嘗めた文化大革命の時代をありのままに描き出している。

「五悪分子(地主、富農、反革命分子、右派、不良分子)の烙印を押されたヒロイン(胡玉音)と秦書田の、どことなく背徳のにおいのする、だがそれゆえに骨もとろかすほど甘美な、おさえてもおさえても、泉のように溢れてくる若い男女の健康な欲情を、しっとりと映し出したショットなど、ルーペを覗いているカメラマンの、満足の吐息がスクリーンから聞えるかのようである」と、山田洋次が語っている。

芙蓉鎮は中国・湖南省の川沿いの小さな鎮(町)である。1963年の春、町に市の立つ日、一番繁昌しているのは、芙蓉小町と呼ばれる胡玉音の米豆腐の店である。玉音の笑顔が客を惹きつけている。

しかし、この状態は長くは続かない。玉音が「新富農」の烙印を押されてしまうのだ。1966年春、文革の嵐が吹き荒れる。玉音と書田の家の入り口には葬式もどきの白い紙が貼り出され、それには「犬畜生の男女」「反革命の夫婦」と書かれていた。

シナリオから、国営食堂のシーンを再現してみよう。
王秋赦と紅衛兵、李国香を雨の中に立たせ、自分たちは食堂に入ろうとする。
王秋赦「(李国香に)雨宿りできる身分か」
李国香「(必死な表情で)紅衛兵さん、聞いてください。これは何かの誤解ですから」
紅衛兵A「黙れ、『破れ靴』を掛けろ」
紅衛兵B「掛けろ!」
王秋赦、李国香の首に、破れ靴を下げた紐をぶら下げる(破れ靴は身持ちの悪い女の譬え)。紐を取ろうとする李国香に、紅衛兵たち、ベルトを突き出して威嚇する。反抗を諦めた李国香、うな垂れて、雨の中に立ち尽くす。
王秋赦「(紅衛兵たちに丁重に)皆さん、雨宿りを。こっちへ。(食堂の中に案内する。ふと雨宿りをしている二人に気づき、厳しい口調で)その二人、出ろ、秦、出て来い。富農も出ろ。雨宿りできる身分か」
秦書田「(雨の中に出て行く)ここは、雨が強くて」
王秋赦「出て来い。悪党は一緒に並べ」
秦書田と玉音、李国香の隣に並んで立つ。

この映画によって、文化大革命が庶民に与えた惨禍を実感することができた。