榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

変な生き物、全員集合!・・・【山椒読書論(438)】

【amazon 『へんないきもの』 カスタマーレビュー 2014年4月23日】 山椒読書論(438)

池袋のサンシャイン水族館で開催中の特別展「へんないきもの展――ナマモノ」を見に行った。深海に棲むダイオウグソクムシ、水底を胸と腹の鰭を使って歩くように移動するロングノーズバットフィッシュ、地中に張り巡らした巣で社会生活を送る、視力がなく、ほとんど体毛がなく、大きな出っ歯が特徴のハダカデバネズミ、世界三大奇虫とされるウデムシ、サソリモドキ、ヒヨケムシ(この3種は昆虫ではなく、クモ綱に属する節足動物)など25種が集められている。奇妙な外見や動作などユニークな生態を間近で観察できて、生物好きの私としては大満足であった。そして、出口で売られている実物にそっくりなハダカデバネズミの縫いぐるみを、思わず購入してしまった私。

それぞれの生物に付されている企画者・早川いくをの解説が、これまた生物たちに負けずユニークだ。『へんないきもの』(早川いくを著、寺西晃絵、新潮文庫)で、そのユニークさを存分に味わうことができる。

「男には男の武器がある、というが・・・ タコブネ」は、こう説明されている。「貝殻入りのタコである。それだけでも十分ヘンテコだが、そのオス・メスの営みは宇宙一奇妙だ。オスには殻はなく、立派な殻を持つのはメスだけだ。その上オスの体長はメスの20分の1。メスからすればゴミのような存在である。・・・オスは一軒家ほどに巨大なメスを見つけると、いそいそと近づいてこのペニス足を挿入する。だがあろうことかそれは挿入後ブツリと切断されてしまうのである。そしてメスは体内に残された複数のオスのペニス足で授精するのだ」。タコブネのオスに生まれなくて、本当によかった。

「男の存在意義なるものについて ボネリムシ」の場合は、こんなふうだ。「海生の無脊椎動物で、小芋ほどの本体に長い口吻がくっついている。この口吻はエサ探しのため2メートルにも伸びる。だがこれはメスだけの話だ。オスの体は顕微鏡サイズであり、体積でいうとメスの20万分の1である。雄雌の比率がここまで馬鹿げて極端な例は他にない。ボネリムシの幼生は、雄雌未分化の状態にある。だが、その時期に成体のメスに見つかると幼生はメスに吸い込まれてしまい、そしてメスの体内でオスに成長するのだ。そしてオスはそれ以後メスの子宮の小部屋で生涯過ごすことになる。・・・しかし口はある。食うためではなく、精子を放出するためだ。オスは、メスの体内で卵を受精させるための、生殖器官に成り下がってしまっているのだ」。これでは、まるで沼正三の『家畜人ヤプー』の世界ではないか。

「実在した平面ガエル コモリガエル」の絵には、鳥肌が立ってしまった。「コモリガエルのオスとメスは後背位で抱き合ったまま水中で宙返りして交接する。その大回転の頂点でメスは卵を産みオスが放精、落下した卵をメスは背中でキャッチする。・・・タコヤキのように背中に並んだ卵はやがて皮膚に沈んでいき、母ガエルの背中には無数の育児室ができる」というのだが、この育児嚢と呼ばれる無数の穴を眺めていると、自分の背中にも穴ができたような錯覚に陥り、むずむずしてくる。

「海洋演芸大賞ホープ賞 ミミックオクトパス」は、形態模写の名人である。「あるときは無害なイソギンチャク、あるときは危険な海蛇、そしてまたあるときは有毒なミノカサゴ・・・しかしてその実体は! タコでーす。・・・ミミックオクトパスの物真似のネタは40種を超えるといわれている」。

本書に収載されているものは滅多にお目にかかれぬ生物がほとんどだが、我が家の近くの森で出会えるものもいる。それはザトウムシである。「長い脚を杖のようにしてあたりを探る様子から座頭市ならぬ座頭虫と呼ばれる。・・・どう見てもクモだが、実はダニの仲間で、何が楽しいのか集団で幽霊のようにユラユラと揺れていることもあり、別名ユウレイグモとも呼ばれる。この髪の毛のような脚に、触覚、聴覚、雄雌の認識などさまざまな感覚器官が集中している。・・・日本のナミザトウムシは脚が180ミリあり、世界最大である」。世界の学界では、ダニの仲間か、それともサソリ、カニムシ、ヒヨケムシの仲間か議論が続いているようだ。