榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『平家物語』では田舎者扱いされているが、私は木曽義仲と巴が大好きだ・・・【山椒読書論(546)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月7日号】 山椒読書論(546)

大型絵本『義仲』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第6巻である。

『平家物語』において、木曽(源)義仲は田舎者扱いされているが、芭蕉、芥川龍之介を始め義仲ファンは多い。かく言う私も義仲大好き人間である。

26歳の義仲が平家打倒の旗を挙げたのは源頼朝より20日遅かったにも拘わらず、頼朝よりも早く平家を討ち破り、入京を果たす。しかし、その半年後には、敗死してしまう。その栄光と没落の過程が、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって辿られている。

「義仲は清和源氏、ゆえあって木曽の山中でそだつうちに、力はつよく、気性は豪気、弓にも太刀にもすぐれて、馬上、徒歩、いずれのたたかいもかれに勝るものはあるまいといわれるほどの、二十六歳の武士になっていた」。

「義仲は、あの倶利迦羅峠の戦勝から二ヵ月とすこしで、ついに都へ、かねてのねがいどおり頼朝よりは早く、意気ようようとのりこんできた。・・・義仲は、たちまち(後白河)法皇の院宣によって左馬頭に任ぜられ、朝日将軍とよばれることになる。京都占領軍の総帥(最高司令官)として、義仲まさに得意のぜっちょうであった」。

「(源義経軍に追われる)敗残の七騎のなかには、巴という女がいた。色白く髪ながく、かがやくばかりの美女であったが、戦いとなれば、地上であれ馬上であれ、鬼をも神をもあいてにしようという豪勇無双。それゆえ多くのものが逃げ討たれするなかで、のこり七騎のなかに巴は討たれずのこっていた。・・・ついに主従五騎になってしまった。その五騎のうちに巴はまだ討たれずにのこっていたが、義仲が、『おまえは女、はやくどこへでもさっていけ。わが最期に女をつれていたなどとはいわれたくないのだ』。くりかえしそう命じられて、それならばと巴、敵陣に駆けいって敵の大将の首ねじきってすて、自分はよろいをぬぐと、東国のほうへ落ちていく」。

私は義仲だけでなく、彼の愛妾で、常に彼と共に戦った女武者・巴も大好きだ。巴という素晴らしい女性に愛された義仲が、つまらない人物であったはずがないではないか。

こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。