榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

平氏という武士の一族の隆盛の基盤を築いた平忠盛の経済力と胆力・・・【山椒読書論(541)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月2日号】 山椒読書論(541)

大型絵本『忠盛』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第1巻である。

「平忠盛は、ながいあいだ、伊勢その他の地方の国守という役目をつとめながら、たくさんのお金をためた。そのお金で忠盛は、京都におおきなお寺をたてた。その本堂の名は三十三間堂・・・そしてこのお寺を、そっくり鳥羽上皇に献上した。・・・忠盛、ときに三十六歳であった。・・・この年、宮中に出入りを許されたというのも、ただお寺を献上したからそうなったというのではなかったろう。忠盛を頭とする平家一門の実力が、経済的にも、武力のうえでも、上皇がそれをみとめないわけにはいかないまでに、おおきくなっていたからだったにちがいない」。『平家物語』冒頭のエピソードが、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって展開されていく。

「(忠盛の出世を妬む)貴族たちのたくらみを、まえもってはやくも知り、それに対する策をすばやくたて、そしてその策を、おちついて手ぬかりなくやりとげた、忠盛のその知恵や決断力。また、貴族たちの、子どもっぽいいやがらせを、だまってたえぬいた、忠盛のその忍耐力。そして忠盛と家来との、まえもってうちあわせたのでもないのに、ぴったりと息のあった、それも命がけの、しっかりとしたむすびつき――。これらにくらべてみると、貴族たちのやること、いうことは、すべてにだらしなくみえてくるではないか。つまり、いままで日本の政治をおさえていた貴族たちをおしのけて、ここに平家という武士の一族が、はじめて日本の歴史のなかに、どうどうと登場してきたのである。そのきっかけをつくったのが、忠盛であった」。この一節に、木下順二の歴史観が表れている。

こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。