私を歴史好きにさせた源義経の栄光と没落・・・【山椒読書論(547)】
大型絵本『義経』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第7巻である。
源義経(幼名・牛若)は、日本人にとって最も人気のある歴史上の人物の一人であるが、私にとっても頗る重要な人物である。私が歴史好きになったのは、幼い頃、夢中になって何度も読み返した絵本『牛若丸』(近藤紫雲画、千葉幹夫文・構成、新・講談社の絵本)の影響が大きい。小学生の時、自分で脚本を書き、学芸会で自ら牛若を演じたこともあった。
この『義経』では、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって、義経の栄光と没落が描かれている。
21歳の時、奥州から駆けつけ、黄瀬川の陣で兄・源頼朝と感激の対面を果たしてから、縦横無尽の活躍で平氏を全滅させる。しかし、疑い深い頼朝から疎まれ、奥州に逃れていく。「義経は、ついにしょうぜんと北国へ、少年の日々をおくった奥州へむかうことにした。『朝にかはり夕に変ずる世間の不定こそ哀なれ』と、『平家物語』は義経の話をむすんでいる。そしてこれ以後、義経はこの物語のなかからすがたをけしてしまうのである。『義経記』というのは、義経にかんして『平家物語』にかいてない部分、つまり少年時代と晩年とをかいた本で、歴史書というより伝説的要素のまさったものだが、あれ以後の義経のだいたいのようすは、この本で知るほかない」。
木下順二は、義経を天才的勇将だが、非常に有能な政治家であった頼朝の思慮を全く察することのできなかった政治的無能者と位置づけているが、この見方には、到底賛成できない。
追っ手に捕らえられ、時の権力者・頼朝の前でも臆することなく、義経を慕う歌を歌いながら舞った静は、私の大好きな女性である。その静にこれほど深く愛された義経が、つまらぬ人物であったはずがないではないか。義経の政治的無知をあげつらうよりも、頼朝の陰険な性格を指摘すべきだと考えている。
いずれにしても、こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。