縄文人は、縄文犬を猟犬として利用し、神へのイケニエともしていた・・・【山椒読書論(658)】
『イヌと縄文人――狩猟の相棒、神へのイケニエ』(小宮孟著、吉川弘文館・歴史文化ライブラリー)によって、縄文時代のイヌについて、縄文人とイヌとの関係について、いろいろと知ることができた。
●縄文犬の骨は、日本犬の柴犬や甲斐犬の骨とサイズや手足のプロポーションがほぼ等しいので、縄文犬は現代の柴犬や甲斐犬に似た小型犬が主流だったと考えられている。
●縄文遺跡出土のイヌの骨とイノシシやシカなどの野生動物の骨とで最も大きな違いは、イヌの骨がしばしば埋葬された状態で発見されることである。
●筆者が知るかぎりでは最古の縄文犬の年代は、放射性炭素年代で約8500年前と考えられている。いっぽう、考古学的に世界で最も古いとされるイヌの放射性炭素年代は約1万2000年前とされている。これが事実なら、縄文犬は世界最古級のイヌとあまり大きな年代差がない古いイヌである可能性がある。
●縄文犬と東アジアのオオカミおよびニホンオオカミとの歯牙や骨のサイズの明確な差は、すでに戦前の日本の研究者が指摘している。その結果、小型犬を主流とする縄文犬は国内のオオカミからつくられたものではなく、大陸からの外来犬と考えられるようになり、当時の論議の中心は縄文犬の渡来ルートに移っていった。
●イノシシ猟にイヌを使う狩猟法は、縄文早期末~前期初頭の西日本から始まって前期中葉までに関東、東北地方の太平洋側まで広がり、中期以降になって東北地方北部より北の地域をのぞく全国に広がったと考えてよいと思われる。・・・冬を中心とする季節には、縄文犬は主にイノシシ猟やシカ猟に駆り出されていたと考えられる。
●神へのイケニエとして供えられる埋葬行為は、猟犬と並ぶ縄文犬の重要な用途の一つに位置づけられるだろう。
●動物考古学ではイヌを解体し、食用とする文化は弥生時代以降に現れると考えられている。