優しい夫と長女がいるのに、人気作曲家からプロポーズされてしまったら、あなたならどうする?・・・【山椒読書論(710)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月20日号】
山椒読書論(710)
コミックス『三丁目の夕日[夏の思い出]』(西岸良平著、小学館)に収められている「水中花」は、こんな物語である。
キミ子は20歳前だが、優しい夫と長女がいる。近所で評判の美人である。日曜日、夫に娘の世話を頼み、デパートに行った帰り道で、中学で先輩だった和歌子に偶然出会う。雑誌社の記者をしている和歌子に誘われて、人気作曲家の小倉新一の取材に同席したところ、新一からプロポーズされてしまう。
「なんだか今夜は、この部屋がずいぶんみすぼらしく見えるわ・・・タケちゃんもなんだか頼りなく見えるなあ・・・結婚して子供もいるって、ちゃんと説明したら、わかってもらえただろうけど・・・なんだかだまってて悪いことしちゃったみたい・・・でもあんなステキな人がプロポーズしてくれるなんて・・・やっぱり結婚早すぎたのかなあ・・・」。
長女のミヨ子と買い物に行っても、新一の顔が浮かんでくるキミ子。「バカねえ私って・・・いつまでも、あんなこと思い出しているなんて」。駅前花店で買い、自宅のコップに入れた水中花を見ながら、「人生に迷いや悩みはつきないけれど、ささやかでも二人で努力して築いてきた幸せこそ、かけがえのないものだとキミ子は感じ始めていた」。
やっぱり、西岸良平の世界はいいなあ。