榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

死は「幸せな区切り」という考え方・・・【山椒読書論(725)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年7月28日号】 山椒読書論(725)

人は死ねない――超長寿時代に向けた20の視点』(奥真也著、晶文社)で、とりわけ興味深いのは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬、AI診断、死は「幸せな区切り」という考え方――の3つである。

●ALSの治療薬
「2019年7月、東北大学『東北メディカル・メガバンク機構』の研究グループが、ALS患者さんの細胞からiPS細胞をつくることで病気を再現し、変形した神経細胞からALS発症の原因となる遺伝子を特定しました。この発見が正しければ、原因遺伝子を標的とした分子標的薬が開発されるのもそう遠くない、と期待が集まっています」。ALSに強い関心を抱いている私にとって、願ってもない朗報だ。

●AI診断
「AI診断も。人間の健康寿命を延ばすことに大きく貢献します。・・・AIなら、あらゆる病気の情報を網羅したデータベースを作成し、患者さんの基本情報や検査データ、病状などと照合して、人間よりさらに正確な診断をすることができるでしょう」。

「特にCTやMRIによる画像診断は、今後急速にAIによる代替が進んでいきます。すでにAI診断が、人間の能力を超えるケースも出てきています。2016年、AI による乳がんの病理診断の正確さを競うコンテスト『CAMELYON16』において優勝したAIの正確性は0.994(値が1に近いほど正確性が高い)でした。比較対象となった11人の病理医の正確性の平均値は0.810。AIが人間を大幅に上回る結果を出しています。しかもAIはわずか数秒で129枚もの画像診断を行っていて、診断の精度の高さと圧倒的なスピードが実証されました。AIはインターネットなどの情報分析テクノロジーとの親和性が高く、インターネットを活用した遠隔診断や自動診断の実現と普及にも大きく貢献するでしょう。医療の世界、特に『診断』のプロセスにおいてはそう遠くない将来にAIがデータ分析や照会を行い、最終チェックやその結果を参考にした診断を『人間医師』が行うスタイルが主流になっていくはずです」。医療におけるAIが、これほどまでに実力を付けているとは!

●死は「幸せな区切り」という考え方
「あらゆる病気を克服し、テクノロジーの力で最後まで生き切ることができれば、死をもはや不吉でネガティブなものと思う必要はないかもしれません。むしろ死は、達成感を伴う『幸せな区切り』として受け止めることもできるかもしれないとさえ、私は思っています」。著者のこの考え方は非常に重要である。死を恐れる必要がなくなるということは、人間にとって最大の悩みが消失することを意味するからだ。