妻を死ぬほどこわがらせる、紙の上で踊る奇妙な人形たちの謎とは・・・【山椒読書論(782)】
【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月1日号】
山椒読書論(782)
『名探偵ホームズ 踊る人形――コナン・ドイル ショートセレクション』(アーサー・コナン・ドイル著、千葉茂樹訳、ヨシタケシンスケ絵、理論社)に収められている『踊る人形』は、本格的な謎解き推理小説である。
シャーロック・ホームズがノ―フォーク州リドリング・ソープの荘園主ヒルトン・キュービット氏から依頼された不思議な事件――。「『たしかに、これはとてもおもしろい代物ですね』。ホームズはいった。『ちょっと見ただけでは子どもの落書きにしか見えません。みょうちきりんな人形たちが紙の上で踊っているようです。どうしてこんなものが、なにか重大な意味を持っていると思われたんですか?』。『そう思っているのはわたしじゃないんですよ、ホームズさん。妻なんです。妻は死ぬほどこわがっています。なにも話しませんが、目を見れば、どれほどおそれているかわかります。それで、きちんと解明したいと思ったんです』。ホームズが紙を持ち上げたので、日の光があたった。それは手帳から切りとられた紙だ。鉛筆でこんなものが描かれていた」。
例によって、ホームズは見事な推理で謎を解明するのだが、訳者が「あとがき」に、こう記している。「ドイルは17歳ごろの学生時代に、エドガー・アラン・ポーの暗号ミステリー『黄金虫』を読んで、はげしいショックを受けたといいますので、この『踊る人形』はポーへのオマージュといってもいいのかもしれません」。そう言われてみると、確かに、本作品は『黄金虫』の謎解き手法を想起させる。