榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

8歳の男の子が7歳のかわいい女の子と駆け落ちをした物語・・・【山椒読書論(784)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年5月3日号】 山椒読書論(784)

『ヒイラギ荘の小さな恋――ディケンズ ショートセレクション』(チャールズ・ディケンズ著、金原瑞人訳、ヨシタケシンスケ絵、理論社)に収められている『ヒイラギ荘の小さな恋』は、8歳の男の子が7歳のかわいい女の子と駆け落ちをした物語である。

「その坊ちゃんが――坊ちゃんと呼んでもいいでしょう、まだあの年ですから――そこで何をしたかというと、なんと、おばあさまの家から抜けだして、ノーラお嬢ちゃんといっしょにグレトナグリーンにいって、結婚しようとしたんです!」。語り手は、ハリー坊ちゃんの屋敷で庭師をしていたが、現在はヒイラギ荘という宿屋で働いている。

「人はよく、昨日はこうだった、明日はこうしようと考えますが、本当に大切なのは、今日、いま、この時なのではないでしょうか」。

いろいろあって――。「結局、こんなふうにおさまりました。坊ちゃんはお父様に手を握られて、四輪馬車で帰っていきました。お嬢ちゃんは宿屋の奥さんと、次の日に宿屋を出ました。そのお嬢ちゃんは、それからずいぶんして、インドの総督と結婚して、インドで亡くなったそうです。この幼いふたりの駆け落ち事件で、わたしはこんなふうに考えるようになりました。結婚にいたるカップルで、このふたりほど純粋に愛し合っているカップルは、まず、いないでしょう。一方、結婚しようとしているカップルで、まだ間に合ううちに止められて、結婚しなくてよかったという例はとても多いのではないでしょうか」。この結びは、いかにもチャールズ・ディケンズらしいですね。