いろいろなことを考えさせられる、喪失と再生の物語・・・【山椒読書論(818)】
【読書の森 2024年7月31日号】
山椒読書論(818)
小説を読むのは、あり得たかもしれない、もう一つの人生を経験することだとしたら、『ばかもの』(絲山秋子著、新潮文庫)は微妙な作品と言わざるを得ない。
19歳の地方大学生のヒデが、バイト先で知り合った27歳の額子(がくこ)と繰り返す濃厚なセックスはともかく、額子に去られてからのヒデのアルコール依存症の荒んだ日々は経験したいとは思わないからだ。
11年後――。アルコール依存症から何とか立ち直らねばと七転八倒のヒデは、額子が夫が運転するフォークリフトによって左腕を失い、独りでひっそりと暮らしていることを知る。
久しぶりに再会した二人は・・・。
いろいろなことを考えさせられる、喪失と再生の物語である。