榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

重要だと分かっているのに、PDCAはなぜ回らないのか・・・【続・独りよがりの読書論(18)】

【にぎわい 2013年7月31日号】 続・独りよがりの読書論(18)

適切な参考書

PDCAの重要性は知られているが、PDCAがきっちりと回転している組織は、そう多くはない。そして、PDCAの適切な参考書は意外に見つからない。その点、『これだけ! PDCA――必ず結果を出すリーダーのマネジメント4ステップ』(川原慎也著、すばる舎リンケージ)は、語り口はソフト、内容はシンプルだが、ポイントはしっかり押さえている。

回らないPDCA

言うまでもなく、PDCAは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善。因みに、動詞で揃えるため、私はActionではなくActと表現)のサイクルを回そうというものだが、圧倒的に重要なのはPである。

「なぜPDCAが回らないのか?」という問いに、「全ての原因は『計画のダメさ』にアリ」と、著者が断言している。その背景として、「そもそも計画が作れていない」というのだ。根拠の薄い数値目標が並べられているだけで、その数値目標を「どうやって」達成するのかという行動レヴェルにまで落とし込まれていないケースがほとんどだというのだ。

「計画」と「計画らしきもの」は、違うのだ。PDCAにおける計画とは、目標を達成するために、「何を」「誰が」「いつまでに」「どうやって」実行するのか、が見えていなければならない。一方、計画らしきものには、「何を」と「いつまでに」はあっても、「誰が」と「どうやって」がほとんど明らかになっていないというのだ。

Plan段階

Plan段階は、5つのステップ――ステップ①=現状振り返りがスタート地点→ステップ②=正しい事実を把握する→ステップ③=事実を認識するプロセスを欠かさない→ステップ④=計画には「勝てるイメージ」が不可欠→ステップ⑤=実行に値する計画か検証する――で考える。

「計画策定段階で勝負は90%決まる」のに、「計画」「目標」「目的」の3つが混同されていることが多い。計画は目標を達成するために作り、目標は目的を実現するためのものである。目標には、売り上げ目標、利益目標といった数値で表せるものと、給与・評価制度の作成、業務マニュアルの作成、教育体系の整備、システムの構築といった解決すべき課題――の2つに大別できる。

いったい何のための目的・目標なのか。これを見失った瞬間、計画は間違った方向へ進みかねないと、著者が警告している。目的を考える際、顧客志向に立つことが重要である。顧客の期待を上回る仕事をしているか、顧客満足度を高めるために、具体的にどんな仕事をすべきか、という視点である。こう考えると、やるべき仕事が鮮明になり、顧客満足度に直接関係のない業務は、極力効率化するか、場合によっては止めてしまうという選択肢も見えてくる。

具体的な計画作りに当たっては、「現在、行われている業務は、うまく回っているのか」、「問題があるところはどこなのか」、「その問題はなぜ発生しているのか」、「昔からの慣例でやっている業務で、不要な業務はないか」、「他部署との連携はうまくいっているのか」といった現状の振り返りからスタートし、どんなことならできそうか、欲張り過ぎずに、現実的なレヴェルでの計画を策定するよう、著者は勧めている。計画策定時の留意点として、「正しい事実を把握すること」と「メンバーと共有すること」が挙げられている。

「勝てるイメージ=決めた目標を達成できるイメージ」ができたところで、実行レヴェルに落とし込むことになるが、その悪い例では、「『何を』=給与・評価制度の見直しを、『いつまでに』=上半期中に、『誰が』=リーダーである自分と担当者2名が、『どうやって』=・・・・・・」といった大まかなものになりがちである。一方、優れた例では、目標を細分化して、「『何を』=現行制度の問題点の整理を、『いつまでに』=1カ月以内に、『誰が』=担当メンバーの○○が、『どうやって』=各部門責任者のヒアリング、従業員アンケートを実施する」とし、さらに、「各部門責任者のヒアリング、従業員アンケート」の部分を、「『何を』=各部門責任者のヒアリングを、『いつまでに』=1週間以内に、『誰が』=担当メンバーの○○が、『どうやって』=ヒアリング項目作成、責任者とのアポを実施する」というところまで落とし込む。計画は、必ず日々実行できるレヴェルにまで落とし込むことが必要だというのだ。

Do段階

Do段階では、「想定外」は起きて当たり前と考え、あり得ないことに対しても準備はしておこう。そして、リーダーに課せられている最大の使命は、「限られたメンバーを効率的かつ効果的に動かすことでチームの生産性を最大化すること」であり、それには部下育成(=人間志向)が不可欠となる。部下育成に最も有効なのは、「どんどん仕事を任せる」ことだ。

Check段階

Check段階は、4つのステップ――ステップ①=現状の正しい把握からスタート→ステップ②=早めのタイミングで改善のための手を打つ→ステップ③=目標にピッタリのKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)を見つけよう→ステップ④=成果に直結するKPIとは?――を踏むことで、改善策が見えてくる。

Act段階

次の計画に繋げるAct段階で、改善が実現できるか否かは、改善を妨げているさまざまな「しがらみ」を断ち切れるかに懸かっている。しがらみを打破するには、会議を活用して、メンバーの理解と納得を得て、メンバーを巻き込むことを、著者が勧めている。

イーピーエスの実践

イーピーエスのPDCA発表会は、聴講するたびに、驚きと学びがある。品質管理の視点から、クライアントにとっての「当たり前品質」を超えて「魅力的品質」を実現すべく、PDCAを2回以上回転させ、着実に成果を得ているからである。どのプロジェクト・チームも、重要な問題点が見えてくる「パレート図」と、材料、機械、人、方法の4つの角度から、魚の骨の形を真似て整理すると真犯人(真の原因)を突き止めることができる「特性要因図」を巧みに使いこなしている。

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PDCAをきちんと回せない組織に明るい未来はない(=ビジネス志向)ことを一人ひとりが銘記して、情熱を燃やして、PDCAサイクルの螺旋状の発展的回転に挑戦し続けよう。