榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

あの時代、女優たちは私たちの美神であった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(16)】

【恋する♥読書部 2014年6月3日号】 情熱的読書人間のないしょ話(16)

ないしょ話・その1:女房が狂言を見たいと言うので、千駄ヶ谷の国立能楽堂へ出かけました。茂山逸平の狂言「船渡聟」はユーモアたっぷりで楽しめました。片山九郎右衛門の能「邯鄲」は様式美の極致を堪能することができました。

ないしょ話・その2:毎朝、自宅から最寄りの流山おおたかの森駅まで16分歩いているのですが、今朝は、その途中で、1分おいて異なる場所からキジのケーンケーンという縄張りを主張する癇高い鳴き声が聞こえてきました。これで、私の通勤路の両側の5カ所にキジが棲息していることが判明し、バード・ウォッチャーの私は嬉しくなりました。

ないしょ話・その3:6月1日、夜中の午前3時40分、寝ている私の耳にホトトギスのトッキョキョカキョク(特許許可局)という鳴き声が聞こえてきました。今年は、これが我が家にとって初音でしたが、その後、毎日、ほぼ同時刻に鳴き声が聞こえてきます。女房によれば、昼間も鳴いているそうです。5月31日が初の夏日でしたので、ホトトギスも夏が来たことを感じているのでしょう。

閑話休題、私は本も映画も好きで、若い時は、かなりの本数の映画を見ていました。こういう私にとって、『わが恋せし女優たち』(逢坂剛・川本三郎著、七つ森書館)は、何とも懐かしい内容の本でした。著者が私と同年代、しかも無類の映画好きとあって、どのページもそうだ、そうだと頷きっ放しでした。

本書では、いわゆる大女優や名女優と呼ばれなくとも、スクリーンを一時華やかに飾った、著者たちの思い出の女優たちに光が当てられています。この姿勢には共感できるなあ。

「逢坂:『にがい米』(ジュゼッペ・デ・サンティス監督、1948)の肉体派というか野生派、シルヴァーナ・マンガーノなんて女優もいたよね。腋毛を堂々と見せていた」。「川本:でも後に、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』(1971)、『ルートヴィヒ』(1972)、『家族の肖像』(1974)に出て、堂々たる貴族の夫人を演じていましたよ。びっくりしましたね。彼女の旦那が大プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスですよね。ライバルのソフィア・ローレンの旦那がカルロ・ポンティ」。この『にがい米』でシルヴァーナ・マンガーノの逞しい肉体を見た時、若かった私は、頭がくらくらしたことを鮮明に思い出します。

もちろん、この本には私の知らない映画・女優もたくさん登場しますが、その中で、ピア・アンジェリ(1932~71)という女優の写真には、惹きつけられてしまいました。その理知的な美しさ! ただ、「ジェームズ・ディーンとの恋愛は有名。・・・睡眠薬を大量服用して死去」というコメントが悲しみを掻き立てます。

「あの時代、女優たちはなんと美しかったことだろう。映画館というひそやかな暗闇のなかでこそ光り輝いていた。非日常の空間で仰ぎ見るミューズ、美神だった。映画好きが深まってゆくと、誰もが知っているスター女優だけではなく、自分だけのお気に入りの女優ができてくる」。まさに、そのとおりの青春でした。