石田梅岩には、二度も驚かされた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(45)】
よく手入れされた名園の梅は、梅をこよなく愛した古代の日本人の心情が偲ばれて、趣がありますが、我が家近くの名もない梅林の梅も、なかなか風情があります。自由に伸び伸びとたくさんの花を咲かせ、馥郁たる香りを漂わせている場に、女房との散策中に行き合うと、何とも幸せな気分に浸れるのです。因みに、この日の歩数は12,205でした。
閑話休題、『日本を創った12人』(堺屋太一著、PHP文庫)の中で取り上げられている「石田梅岩(ばいがん)――『勤勉と倹約』の庶民哲学」には、一度ならず二度も驚かされました。梅岩の名前は知っていましたが、彼はマックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」に匹敵する「日本的資本主義の精神」の提唱者だと著者が述べていることに、びっくりしたのです。
梅岩が始めた石門心学の思想が日本と日本人に及ぼした影響が4つにまとめられています。すなわち、①日本人全体が「生産性や経済性を度外視してでも勤勉に働くのは非常に良いことだ」と考えるようになった、②梅岩が「諸業(それぞれの生業)すなわち人生修行である」と説いたため、「人格が立派であれば生産活動に勤勉に携わるはずだ」という推論が成立した、③人格高潔な職人が作った物は非常に丁寧な作りだという類推を生んだ、④倹約の美徳が強調されるようになった――の4つです。「こうして見てくると、石門心学は今日の日本と日本人の『文化』に非常に大きな影響を残していることが分かるであろう」。
日本を創った12人に選んだくらいだから、著者は梅岩を手放しで褒めているのだろうと思っていたところ、「享保時代の統制社会の中で庶民の知恵として興った石門心学は、まさに日本人がつくり出したきわめて独創性豊かな哲学である。今や、われわれは生産性が高くなり、豊かになった。そのわれわれに必要なのは、石田梅岩の哲学を超える新しい倫理と美意識である」とあるではありませんか。私たちに課題を突きつける著者の見解に、またまたびっくりしてしまいました。