榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

インドの市井のしゃがみ込んだ女性たちの存在感が伝わってくる画文集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(79)】

【amazon 『被衣女群像(かつぎのおんなたち) 印度』 カスタマーレビュー 2015年5月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(79)

昨日の朝、今年初めて、ホトトギスの鳴き声を耳にしました。深夜3時にも、今日の明け方も、昼間も、「トッキョキョカキョク」という特徴ある声が響き渡っています。夕方には、鳴きながら我が家の上空を飛んでいく姿を見ることができました。

書斎に掛かっているヘンリー・ホリデイの「ダンテとベアトリーチェ」の絵は、イタリアのフィレンツェで求めたものです。ダンテが、彼の「永遠の女性」ベアトリーチェに聖トリニタ橋のたもとで再会した場面が描かれていますが、遠景にヴェッキオ橋が望めます。この絵を眺めていると、何日も歩き回ったフィレンツェのあちこちが懐かしく思い出されます。

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絵といえば、31年前に展覧会で田村能里子の絵を見た時は衝撃を受けました。インドの女性、それも市井の女性たちを単色で描いているのですが、その存在感に圧倒されてしまったのです。

その展覧会場で購入した画文集『被衣女群像(かつぎのおんなたち) 印度』(田村能里子著、形象社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を、時折、書棚から引っ張り出して開くと、そんなにせかせかしなくてもいいんじゃない、と言われているような気がします。

しゃがんでこちらをじっと見詰める女性の絵に添えられている「しゃがむかたち」の一節は、こんなふうに綴られています。「印度では、都会といわず農村といわず、『しゃがむ』『うずくまる』姿態が、もっとも日常的なかたちであることがよく判る。お客としたたかなやりとりを交わす市場の物売り女、熱い日差をよけてレンガ塀の陰で、日がな一日物想いにふける女、古ぼけた手鏡を片手に油をべっとりすり込んだ長い髪をゆっくりとくしけずる女、土間で紅茶を溶く女、選択女・・・、皆じゃがみ、うずくまっている。・・・『しゃがむかたち』には、立っている人にはない、重たい存在感を感じるのだ。そしてそのかたちの周りには、まだるっこしい程ゆったりとした重たい時間が流れているような気がする。そうしたかたちの中に、閉じ込められている『こころ』は、何かの目的に追われて立ち働いている人にはない、人生の重さや、苦さをじーっとみつめている『こころ』ではないかと思えてくる」。