榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

11の中国古典のエッセンスが凝縮している人間学の教科書・・・【情熱的読書人間のないしょ話(94)】

【amazon 『中国古典の読み方』 カスタマーレビュー 2015年6月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(94)

散策中、妻と私が「緑の小道」と呼んでいる小道で、雄のミンミンゼミを見つけました。こんなに早い時期にもう羽化したのかと驚きましたが、右の前翅が欠けている個体でした。羽化の失敗か、他の生物に襲われたのか、それとも放射能の影響か原因は不明です。写真を撮ってから放してやりましたが、この体では無事に生き延びることができるか心配です。

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閑話休題、『中国古典の読み方――これだけは知っておきたい処世の知恵』(守屋洋著、徳間書店。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を久しぶりに読み返したところ、いろいろな発見がありました。

「やる気が湧いてくる本『戦国策』」、「人生を発見する本『史記』」、「権謀術数に強くなる本『三国志』」、「治乱興亡の原理がわかる本『十八史略』」、「人間関係に強くなる本『孫子』」、「柔軟な思考力をつちかう本『老子』」、「価値観を逆転させる本『荘子』」、「人間のウラを読む本『韓非子』」、「人間通になれる本『論語』」、「論争に強くなる本『孟子』」、「処世の知恵が身につく本『菜根譚』」――のエッセンスがこんなに要領よくコンパクトにまとめられている書は滅多にありません。

「『三国志』の時代、呉の孫権の配下に呂蒙という武将がいた。この人も戦が強く、めきめきと頭角を現わして将軍職に抜擢されたが、少年時代は貧乏で本を読むひまがなかった」。この呂蒙に孫権が読むように薦めたのが、『孫子』『六韜』などの兵法書と『戦国策』『史記』などの歴史書だったというのです。

『韓非子』は、こう解説されています。「進言にさいしての基本的な心得を身につけたうえで、では具体的にどのように進言していくのか。『相手が自慢にしていることはほめたたえる。恥としていることは忘れさせる。このへんのコツを知ることが大切である。利己的ではないかと行動をためらっている相手には、大義名分をつけ加えて、自信をもたせてやることだ。つまらないことだとわかっているのにやめられないでいる相手には、わるいことではないのだから、やめなくてもいいと言って安心させることだ。高い理想を重荷にしている相手には、その理想のまちがいを指摘して、実行しない方がいいと言うことだ。・・・』。いかがであろう。『上司が進言を聞き入れてくれない』。こんな嘆きを口にするビジネスマンが多いが、そうした人々にとって、この進言のテクニックは、大いに参考になるはずだ」。策略家・韓非子の面目躍如ですね。

「『菜根譚』は、儒教、道教、仏教の三つの教えを融合したところに特徴があり、そこから、他の古典にはない独特の味わいがかもし出されている。たとえば、悠々自適の心境を語りながら、必ずしも功名富貴を否定しない。また、きびしい現実を生きる処世の道を説きながら、心の救済にも多くのことばをついやしている。隠士の心境に共鳴しながら、実社会に立つエリートの心得を説くことも忘れない。だから、『菜根譚』という本は、読む人の境遇によって、受け取り方も、ずいぶんとちがってくるにちがいない。しかし、それぞれの境遇に応じて、必ずや得るところも多いはずである。きびしい現実の中で苦闘している人々は、適切な助言を見出すであろうし、不遇な状態に苦しんでいる人々はなぐさめとはげましを受けるにちがいない。また、心のいらいらに悩まされている人々は大いなる安らぎを与えられるであろう」。

世に中をどう治めるか、人間関係にどう対処するか、交渉をどうまとめるか、組織の中でどう生きるか、上司にどう仕えるか、部下をどう使いこなすか――これらの設問に対する解答がぎゅっと詰まっている中国古典は、人間学の宝庫なのです。