榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

三国志の世界は、正史を知れば、もっと楽しめる・・・【情熱的読書人間のないしょ話(137)】

【amazon 『僕たちの好きな三国志』 カスタマーレビュー 2015年8月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(137)

今晩は夜の昆虫観察会に参加しました。森の中で、紫外線ライトを照射し、垂直に張った大きな白布に走光性の昆虫を集めるライト・トラップという仕掛けを使います。カブトムシ、ノコギリクワガタ、コクワガタ、ノコギリカミキリ、コフキコガネ、アオドウガネ、サクラコガネなど多くの昆虫を観察することができました。スィーッチョンと鳴くハヤシノウマオイ、ジーーーーと鳴くクビキリギスなどの夜行性の昆虫にも出会うことができました(いずれも観察後、森に放ちました)。因みに、本日の歩数は11,604でした。

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閑話休題、私は、三国志の世界は、正史を知れば、もっと楽しめると考えています。この意味で、『僕たちの好きな三国志――新解釈でよみがえる「登場人物95人」と「19の時代」』(Taco Studio、橋本あづさ編、別冊宝島セレクション。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、非常に役に立つ本と言えるでしょう。

「本書で再現される三国志の世界は『正史』を基礎としている」。「『三国志』に初めてふれるという読者のために、正史『三国志』と『三国志演義』の違いについて、簡単に説明しよう。たんに『三国志』とのみいうとき、歴史の世界では正史『三国志』のことを指す。『三国志』は、紀元3世紀に陳寿という人が書いた歴史の本で、中国の正史の一つである。正史といっても、『正確な事実に基づく歴史』という意味ではない。中国の歴代の王朝が、以前の王朝についての歴史書として、正式に認めたものだという意味である。だから、正史に書いてあることが、すべて史実かというと、そうではないことも多い。・・・『三国志演義』は、『三国演義』ともいうが15世紀後半から16世紀にかけて、明の時代に書かれた長編小説である。作者は羅貫中という人になっているが、本当のところはよくわからない。・・・『三国志演義』はあくまでも小説であって、歴史ではない。劉備、関羽、張飛たち三兄弟の有名な『桃園の結義』は、架空の創作された場面であり、諸葛孔明の南征についての部分も、作者の想像によって生み出されたものだ」。

私は天の邪鬼なので、人気のある劉備や関羽、諸葛亮(孔明)などよりも曹操が好きです。本書では、「曹操――治世の能臣、乱世の姦雄、こう評された男は、軍事、政治、文化など多方面に影響を与えた万能の巨人であった」と評されています。

本書の面白さを示す一例として、甄姫(しんき)を見てみましょう。「曹操と曹丕(曹操の嫡男)が争った絶世の美女には、袁家と曹家に関する重大な秘密が隠されていた。・・・その後、甄姫は曹丕の息子として曹叡を産み、曹丕が魏の帝位に就くとともに皇后となった。しかし、わずかその7カ月後に、曹丕から自殺を強いられることになる。・・・彼女は曹家最大の秘密を握っていた。『正史』に異常な記述がある。いや、ない。魏の二代皇帝である曹叡の生年が記されていないのである。余人ならともかく、皇帝の生没年が記されていない史書というのは、その存在理由すら危うくなるほどの重大な記述漏れである。そこには著者である陳寿の隠された意図があった。『正史』に曹叡の享年として記されている年齢から逆算すると、ちょうど曹丕が袁煕から(その妻の)彼女を奪った年と一致するのである。そう、曹叡は曹丕の子ではなく、袁煕の子であったという可能性が生じるのである。・・・曹操、曹丕が争った絶世の美女甄姫。実は曹丕の弟である曹植も彼女に惹かれていたようである」。

三国志の正史にはかなり詳しいと自負していた私ですが、驚くような発見が本書にはたくさんありました。例えば、「魯粛――『演義』の描写とは大きく異なる覇気に満ちた大胆な自信家には、劉備も関羽も諸葛亮も頭が上がらなかった」という史実です。

これこそ、まさしく三国志を正しく楽しむための必読書だというのが、私の結論です。