榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

昆虫好きの北杜夫のユーモアをまぶした昆虫エッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(229)】

【amazon 『どくとるマンボウ昆虫記』 カスタマーレビュー 2015年11月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(229)

我が書斎には、ハダカデバネズミが棲んでいます。と言っても、尾まで入れても12cmぐらいの実物の1.5倍の縫いぐるみです。ハダカデバネズミについて知りたい方は、「裸で出っ歯で、女王・兵隊・雑役係・ふとん係の階層があるネズミ」(http://goo.gl/aK6wO3)をご覧ください。

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閑話休題、書斎でふと手に取った『どくとるマンボウ昆虫記』(北杜夫著、新潮文庫)を、40年ぶりに読み返してしまいました。

昆虫好きの北杜夫の昆虫を題材にしたエッセイ集ですが、この著者一流のユーモアがあちこちに顔を出します。

例えば、ツチハンミョウについては、こんなふうです。「ハンミョウには毒がないが、ツチハンミョウには毒がある。名前こそ似ているが、姿かたちはまったく異なる甲虫だ。・・・こんな親しみにくい虫のことは早く素通りしてしまいたいが、どうして、ツチハンミョウの生活史は、その特異さ、興味ぶかさにおいて滅多にひけをとらぬものを有している。・・・早春、ツチハンミョウの雌は地中へおびただしい数の卵をうみおとす。3週間もすると幼虫が出てくる。・・・彼らは地上に這いだすと活溌に歩きまわり、特にタンポポやキンポウゲによじのぼってゆき、花の中へひそんでじっと何事かを待ちかまえている。・・・蜜蜂の一種シロスジハナバチがいるが、この蜂こそツチハンミョウの幼虫が目ざす相手なのだ。シロスジハナバチが密を吸っている間に彼らは大腿と熊手のような爪でスッポンのごとく蜂の毛にしがみつき、そのまま蜂の巣へと運ばれてゆく。・・・ツチハンミョウの幼虫はそこに産みつけられた蜂の卵を食い破ってしまう。後に貯えられた密と花粉の御馳走はもう彼のものだ。そいつを平らげて成長し、何回か姿をかえ、蛹となり成虫となり冬をこしてから地上へ現われてくる」。

ところが、現実はそうそううまくはいきません。シロスジハナバチ以外の昆虫にしがみついてしまった者には、餓死という運命が待っています。その上、シロスジハナバチにぶつかっても、雄では何にもなりません。「雌にしがみついた幼虫だけが一か八かの冒険旅行を成功させるのだ」。

「ツチハンミョウの幼虫が安楽な生育の場所へ辿りつくまでは、かかる難儀の連続だ。無事に行きつく確率がどんなに低いかは容易に想像がつくだろう。・・・数えきれぬ子供たちのなかから特別の幸運児だけが、ツチハンミョウの歴史をになう一員となれるのだ。・・・動物は高等になればなるほど少数の子孫をつくり、その代り親は子供がある程度大きくなるまで世話をやく。その最たるものはむろん人間で、母親は半永久的に子供の世話をやき、すっかり子供をダメにしてしまう」。この落ちは辛口ですね。