福島原発の必要とされていた津波対策を止めさせたのは誰か・・・【情熱的読書人間のないしょ話(392)】
近くの農家の庭先の無人野菜売り場は、毎朝、朝穫りの野菜が並ぶので人気があり、女房も気に入っています。我が家の庭の片隅で、妖艶な赤いユリの花が咲きました。昨日、分けてもらい、女房が植えたばかりのヒエンソウ(チドリソウ)も元気に咲いています。散策中に、葉の上に黄色い実を載せている見慣れない植物を見つけました。名前が気になったので、植物に造詣が深い柳沢朝江氏に尋ねたところ、セイヨウオトギリソウと判明しました。塀の水抜きの穴からムラサキカタバミが顔を出しています。この強靭な生命力には脱帽です。因みに、本日の歩数は10,641でした。
閑話休題、『市民が明らかにした福島原発事故の真実――東電と国は何を隠ぺいしたか』(海渡雄一著、彩流社)を読んで、改めて東電と国に対する怒りが込み上げてきました。
「福島第一原子力発電所事故は、東日本大震災の津波によって全電源を喪失したことが主たる原因です。地震による外部電源や配管の破断を指摘する見解もありますが、主原因が津波にあることは明らかです」。
「結論を最初に言えば、東電は敷地の高さを超えるような津波を事前に予見していたし、これに対する対策を立て、実行する計画でしたが、途中でこの計画を放棄していたということがわかりました。・・・『なるほど、私たちはこの4年間、ずっとだまされ続けてきたんだ』ということがわかるはずです」。
「NHKはこの事件を必死に追いかけていたんです。情報もいちばん早かったですし、かなりの長さの番組をきちんと作ったはずです。それがどこかで揉み消されたのでしょう。ぼくはNHKの現場の記者たちを責める気はありません。彼らは必死でやってくれました。正確な報道がなされていない状況を何とか変えて、一人でも多くの市民に真実を伝えたいという一心で、このブックレットを作成しました」。
津波対策の先送りの背景に何が隠されていたのでしょうか。「保安院によって予定通りの対策が指示されていれば、事故は防ぐことができたでしょう。しかし、対策はとられず、東電など電事連の圧力に保安院は屈していったといえます」。「私たちをこれだけ痛めつけている福島原発事故の原因になったのは、まさしく2008年7月31日に行なわれた『いったん決めたはずの津波対策はやらない』と決めた武藤栄副社長の指示だったのです。今までは『先送り決定』とか言っていましたが、そういう呼び方は考え直したほうが良いかもしれません。要するに、津波対策をするという決定を転換させた、というか、転覆させた、そういうことが起きていたのです」。津波対策が不可避であることは東電関係者の共通認識であったにも拘わらずです。強制起訴された被告人――武藤、武黒、勝俣――ら東電幹部は、いずれ地震調査研究推進本部の見解に基づく対策が不可避であることを完全に認識していました。しかし、被告人らは、老朽化し、間もなく寿命を迎える原子炉の対策のために多額の費用が掛かる工事をするという決断を下せなかったのです。
その上、事故の3年も前に東電が行っていた津波想定は、事故後も秘匿されました。保安院は最後まで東電を庇ったのです。
「この津波対策がいったん計画されながら、東電が方針を転換し、津波対策をとらないとした背景にはプルサーマル計画の実施を急ぐ政府と電力関係者のねじれた関係があり、ここには福島県も深く関わっていました」。
原発問題を考えるとき、本書を読まずに議論することは許されません。