オリエントの諸問題解決の鍵は「寛容」だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(509)】
この坂本龍馬は、羽織袴で、髷を結い、刀を差していますが、履いているのは洋靴です。龍馬の進取の気性が表れている写真です。
閑話休題、『オリエント世界はなぜ崩壊したか――異形化する「イスラム」と忘れられた「共存」の叡智』(宮田律著、新潮選書)には、著者のオリエント、中東に対する熱い思いが籠もっています。
シュメール、バビロン、アッシリアなどの古代国家を生んだメソポタミア文明から今日に至るオリエントの歴史が丁寧に顧みられています。
「ユダヤ教、キリスト教、イスラム、さらには仏教という、現在の巨大宗教、そのいずれもがゾロアスター教に強い影響を受けているのである。むしろゾロアスター教の思想や神々から、それぞれの宗教が生まれたといっても過言ではない」。「ゾロアスター教が支えたアケメネス朝の『寛容』政策が、結果として世界三大一神教を生み出したということは、大いに留意すべきことである」。「ユダヤ教、キリスト教、イスラムに見られる最後の審判とそれに先立つ肉体の復活、天国と地獄などは、ゾロアスター教から継承したものと考えられる」。「ゾロアスター教の『善悪二元論』『寛容』の論理は、ほぼ原形をとどめたままイスラムに継承されているといってもいいだろう」。
著者のこの指摘は2つの点で非常に重要です。第1は、これまであまり注目くしてこなかったゾロアスター教という宗教が、私たちの眼前に大きく立ち現われてきたことです。第2は、イスラムの基本は「寛容」なのに、現在はその正反対な状況に陥ってしまっていることです。著者は、この「寛容」を取り戻すことが、パレスチナ問題、クルド問題、シリア問題、イスラム国(IS)問題を解決する鍵だと考えているのです。
「『イスラム国』やヌスラ戦線など過激な宗教に訴える集団もあるが、オリエントの若者たちが、ソーシャルメディアなどを通じて世界の若者たちと『自由』や『社会正義』、『イスラム』と『キリスト教』などの価値観をいっそう共有していけば、ヨーロッパ植民地主義がつくった『国境』という垣根を越えて、世界がポジティブに変容していくことは十分考えられるだろう。現在の情報ツールを使いこなす若者たちは、かつて物資とともに人々の価値観も運んだ隊商を彷彿とさせる。あとはそれを支えるキャラバンサライ(隊商宿)を『誰』が、『何』を担うかである・・・。書き換えられた歴史は、掘り起こして昔を知ることもできれば、その上に書き足してゆくこともできる。なによりオリエントには『寛容』がある。オリエント共存の知恵はこの地域の過去の歴史的発展の中にあるという気がしている」。
「イスラム世界と欧米が共存していくには、この両者の関係における『よかった過去』を思い起こすことが必要だ。もちろん『よかった過去』もあれば、『よくなかった過去』もある。いずれもが、人類がやって来たことであり、もはや否定することは出来ない。だからこそ求められるのは、そう『寛容』なのである」。
この著者の願いが叶う日の近からんことを祈るや切。