榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

北条泰時の政治姿勢、孫の北条時頼の政治姿勢・・・【情熱的読書人間のないしょ話(517)】

【amazon 『北条九代記(中)』 カスタマーレビュー 2016年9月5日】 情熱的読書人間のないしょ話(517)

私の好きな謡曲『鉢木』に登場する北条時頼の木像は、生前の面影を彷彿とさせます。

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北条九代記(中)――もののふの群像』(作者不詳、増淵勝一訳、教育社新書。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、北条時頼の祖父・北条泰時の政治をこう評しています。「武蔵守泰時は思いやりがあって道理にかなった政治をなさるという評判が世間に鳴り響き、いつも清廉でよく人に譲り、節操を守って正道を行いたいと心中に思われつつ、国を安定し人々をいつくしむ政治を心がけてこれらを毎日の勤めとなさっていた」。このような政治を行なう際の具体的な基準を定めたのが、世に名高い貞永式目(御成敗式目)です。

泰時の孫の時頼の政治は、こう記されています。「相模守時頼入道は、国政に不正がなく人望はまことに立派で、すべての面で私心がおありにならなかった。けれどあも役所の奉行(局長)・引付衆・評定衆の中には、ややもすると私欲に陥って、清廉・正直な道を誤る者がいた。(そこで時頼は)『なんとかして正道に立ちもどし、世を太平の静かで穏やかな状態において人々を慈しみたいものである』と思われた」。

この記述に続いて、廉潔で正直ではあるが不遇であった青砥左衛門尉藤綱を、時頼が抜擢したエピソードが収録されています。こういう時頼の政治姿勢が、諸国を旅して民情視察を行ったという『鉢木』の物語を生み出したのでしょう。

しかし、時頼は強かな政治家でもありました。北条氏を支え、北条氏と縁戚関係にあった有力御家人の三浦氏一門を、チャンスを逃さず滅亡させています。