従妹に裏切られたロビン・フッドの悲惨な最期・・・【情熱的読書人間のないしょ話(522)】
子供の頃から、12~13世紀にイングランドのシャーウッドの森を本拠地として活躍したとされる伝説上の人物、ロビン・フッドは私の憧れのヒーローでした。ところが、大人になってから、ロビンは従妹の女性に裏切られて悲惨な最期を迎えたということを知り、衝撃を受けました。『ロビン・フッドのゆかいな冒険』の著者、ハワード・パイルが描いた挿し絵の、死に臨んで最後の矢を射るロビンと、その脇で嘆き悲しむリトル・ジョン(「リトル」は渾名で、実際は怪力の大男)からは若き日の溌剌とした面影が失われています。
『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(ハワード・パイル著、村山知義・村山亜土訳、岩波書店)のエピローグは、このように記されています。「ロビン・フッドは、りっぱな戦をして勝ったけれど、そのことがひどく気がかりになって、ふかいもの思いに沈み、とうとう熱病にかかってしまった。3日のあいだ、病気とたたかったが重くなるばかりだった。4日めの朝、彼は小人のジョーンを呼んで、とうしても熱がさがらないから、ヨーク郡のカークリーの近くにある、尼寺の尼院長をしているいとこのところへ行こうと思うといった。その女は、医術にすぐれているから、彼の腕の血管を切り開いて、血を少しとって、病気をなおしてくれるだろうと思ったのだ」。
「(先代の)王様が彼女を尼院長に命じたのも、ロビンにたのまれたからだったのだし、そのほかにも、彼女はロビンにいろいろと恩になっていた。だがこの世には、恩ほど忘れられてしまうものはない。・・・(彼女は)彼とのつながりが、(現在の)王様のごきげんを損じることになりはしないかと、心配していた。それでロビンがきた時、彼女はうわべは親切にもてなしながら、心の中では悪いことをたくらんでいた」。
「尼院長は、部屋にだれも入れず、ロビンの腕を、まず、かたくしばった。そして血管を切り開いたのだが、それは皮膚のすぐ下にある静脈ではなくて、もっと深いところにあって、きれいな血が、心臓からどんどん流れてくる大事な動脈だったのだ。だがロビンは、このことにちっとも気がつかなかった。尼院長は仕事をすますと、部屋の錠をかけて、出て行ってしまった。一日じゅう、血はロビンの腕から流れていた。彼はそれを止めようとしたが、どうしてもできなかった。何度も何度も助けを呼んだが、だれもきてはくれなかった。その声は(尼院長によって外に追い出されていた)小人のジョーンのところへも、とどかなかったのだ」。
「『小人のジョーン、小人のジョーン、わしの親友よ、世の中のだれよりも、一ばんわしのすきな友だちよ、おまえにたのむ。この矢が落ちたところに、わしの墓を掘ってくれ』」。何ということでしょう。これが義賊ロビン・フッドの最期とは、あまりに悲し過ぎます。