榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ソニーの「リストラ部屋」に追い込まれた人々の凄惨な実態リポート・・・【情熱的読書人間のないしょ話(464)】

【amazon 『奪われざるもの』 カスタマーレビュー 2016年7月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(464)

散策中に、少し先を歩いていた女房が「紫色の綺麗なチョウよ!」と声を上げたので、慌てて駆けつけました。飛ぶときは翅の表が青紫色に美しく輝くムラサキシジミですが、翅を閉じて止まった地味な写真しか撮れませんでした。長いことカメラに収めたいと願いながら、滅多に止まらないため失敗続きだったアオスジアゲハとキアゲハの姿を遂に捉えることができました。アカボシゴマダラが群舞している林を見つけました。交尾寸前の彼らを写真に収めることができました。ツマグロヒョウモン、ミンミンゼミ、アブラゼミも撮れました。ミンミンゼミやアブラゼミの幼虫たちが出てきた穴がたくさん開いています。因みに、本日の歩数は17,972でした。

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閑話休題、かつて、私たちにとってソニーは世界に対し胸を張って自慢できる燦然と輝く企業でした。そのソニーに「リストラ部屋」、「追い出し部屋」が存在したということだけでもショックなのに、『奪われざるもの――SONY「リストラ部屋」で見た夢』(清武英利著、講談社+α文庫)では、その凄惨な実態が生々しくリポートされているではありませんか。しかも、リストラ部屋を経験した元社員たちが実名で証言しているのです。読み進むにつれ、彼らの辛い胸中が我がことのように感じられて、胸が詰まりました。

「ソニーのキャリア開発室の源流をたどると、中高年社員対策として1985年にスタートした『能力開発センター』に行き着く。当時の言葉で言えば、『窓際族』対策である。職場で持て余し気味の中高年――人事担当者は『職場にフィットしない人々』と表現するが――そんな社員を集め、雑用を与えながら転職支援を行っていた」。「キャリア開発室に通う面々は会社から早々に出ていくことを期待されていたから、その部屋は社員から『追い出し部屋』と呼ばれていた。一方、追い出される側の中には、『ガス室』と呼ぶ面々もいる。サラリーマンの命である仕事を奪い、もとの職場には生きて帰れないからだ。新たな仕事は与えられずそこに一日中、閉じ込められている」。

「上司とそりの合わない者や『とんがった』エンジニアなどはしばしば人員削減のリスト候補に挙げられる。能力の劣る社員だけがリストラの対象になるわけではないのだ」。「新しい世の中や画期的な発明、発見はたいてい異端者によってもたらされてきた。日本企業のなかで異端の才能を最も評価していたのは、かつてのソニーであった。その異端者たちがリストラ部屋に収容されるところにその後のソニーの不幸があった」。

「当然のことのように名刺は用意されていなかった。遠からず会社を辞めてもらうのだから、もう必要ないというのだろう。・・・物音ひとつ聞こえない不思議なフロアだった。・・・部屋に入ると5人掛けの長い机がズラリと並んでいる。その机の上を低いパーティションを置いて仕切っていた。その後、人数が一時約150人にまで増えると、とうとうパーティションの数を増やして6人掛けにしたという。満員だったのである。・・・『ソニーリストラ村』の住人はもちろんベテラン社員が多い。50歳代がざっと半分で、続いて40歳代、30歳代も1割近くいたようだった。実態が正確につかめないのは、情報交換の仕組みがない部署だからだ。『あんたたちは、就職するところを早く決めて、とっとと出ていきなさい』という部屋なので、仕事もミーティングもなければ、連帯感もない。人事の庶務担当者から来るのも、最低限度の伝達事項とか、『戸締まりができていなかったから気を付けてください』といった程度の連絡で、それもほとんど電子メールでの伝達だった。・・・部屋には、不安とわずかな希望、焦燥が濃密に満ち、それを見守る人事部側には同情と倦怠の色がある。・・・リストラ部屋に在籍した社員はのべ数千人に上る。それだけの人々が無能ぞろいだったわけがない。部下の個性と能力を知り、その業(わざ)を生かすのが管理職や会社の仕事だ。リストラ部屋行きを通告することで、その務め自体を放棄しているのだ」。

「帰りたくてもこんな早い時間には自宅に帰りづらいのだ。もしかすると、この部屋に配転されたこと自体が内緒なのではないか。彼らはこの部屋に集められ、押し込められている。それでも家族やご近所には『世界のソニー』で忙しく働く社員のはずだから」。「そこは妙に暗い部屋だった。200人ほどの中年社員たちが新聞や本、パソコンを前にぼんやりと机に向かっていた。まるで図書館にいるような静かさが覆っている」。

続々とリストラ部屋に追い込まれる人々がいる一方で、業績不振にも拘わらず超高額な報酬を手にした経営者たちがいたことに怒りを禁じ得ません。その後のソニーの凋落ぶりを見て、企業の命運はトップの志と力量に左右されるということを改めて痛感させられました。

「大賀(典雄)は『エンジニアでなければ』という盛田(昭夫)の意思を知っていたはずだ。だが、彼が次の社長に指名したのは、意外にも『カンパニーエコノミスト』を志して入社した出井(伸之)であった。ここがソニーのターニング・ポイントである」。「盛田の出井に対する評価は必ずしも高いものではなかった、という証言もある。盛田に近い元役員が言う。『出井さんが社長に抜擢されるとき、盛田さんは既に倒れて療養中でした。残念ながら思考能力はなかったはずです。出井さんを選んだのはあくまで大賀さんの独断でしょう。大賀さんは数人の社長候補リストのなかから、燦々と輝く人物と見込んで、出井さんを選んだのですが、後々、<あの指名は僕の大失敗だった>と悔やみ、泣かれていました』」。

「『(ハワード・)ストリンガーは米国の放送局CBSに30年間勤めたジャーナリストで、電子機器などハード関連の技術に詳しくない』と指摘する。つまり、出井がソニー米国法人の社長としてリクルートした子飼いに過ぎないではないか、というわけだ。そんな人間がソニーでどんな仕事をしてきたのか、と大曾根は問いかける」。「ストリンガーが絶対権力を手中にして、平井一夫ら『四銃士』と呼ばれる側近役員を周りに配置した日である。その人事はソニーをさらに混迷へと導く」。

現在、「Morita Akio」と名乗り、ツイッター上で痛烈なソニー経営陣批判を続けている正体不明の人物に、会社側が神経を苛立たせているというのです。「法務・広報部門がこの一連のツイートに神経を尖らせる理由は、第6代社長・出井伸之からストリンガー、そして平井一夫と続く『リストラ型』経営陣の方針を真っ向から否定していることである」。「『会社の危機』を叫びながら、凋落の責任者であるストリンガーに巨額の退職金や報酬が支払われ、その全容はいまだに明らかにされていない。後継の平井一夫もドル建てで報酬を受け取り、本宅を米国に置いているため、日本の居住費などは会社負担と言われているが、会社は公表を避けている。そうしたことへの疑問がMorita Akioを生み、同志を集めさせ、2016年に入っても社員たちに情報リークを促し続けている」。

私は以前は熱烈なソニー・ファンでしたが、今やソニー製品を購入する気が失せてしまいました。