榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

対ナチスのノルマンディー上陸作戦を成功に導いた二重スパイの奇抜な計略・・・【情熱的読書人間のないしょ話(568)】

【amazon 『二重スパイ コード・ネーム「ガルボ」』 カスタマーレビュー 2016年10月21日】 情熱的読書人間のないしょ話(568)

女房はパッチワーク教室に、私は千葉・流山の旧・新川村の史跡を巡る散歩会に参加しました。縄文時代後期の上新宿貝塚、上貝塚貝塚には当時の貝殻が散らばっています。神護景雲3(769)年創建とされる香取神社には、珍しい千庚申の塔が遺されています。神明造の神明神社には、文化8(1811)年の銘のある疱瘡神塔が遺されています。当時、流行した疱瘡(天然痘)の治癒を神に祈ったものです。江戸時代に築かれた上新宿野馬土手の一部が遺されています。明治6(1973)年に南小学校がこの不動堂で開校したそうです。因みに、本日の歩数は15,677でした。

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閑話休題、一口にスパイと言っても、大物もいれば、小物もいます。大物スパイの中で、歴史上、最大の実績を上げたスパイは、英国側では「ガルボ」、ナチス側では「アラリック」というコード・ネームで呼ばれた二重スパイです。ナチス没落への端緒となった連合軍のノルマンディー上陸作戦を成功に導いたガルボ。その敵の意表を衝く奇抜な計略の全貌が、『二重スパイ コード・ネーム「ガルボ」――史上最も偉大なダブル・エージェントがノルマンディー上陸作戦を成功に導くまで』(ジェイソン・ウェブスター著、安原和見訳、河出書房新社)で明らかにされています。荒唐無稽のスパイ小説とは異なり、歴史的事実を踏まえた本書は、真実が持つ重みと奥深さを感じさせます。

「ガルボは一般にひとりの人間、つまりフアン・プジョルの偽名だと考えられている。『ガルボ』はMI5(英国軍情報部第5課)がプジョルに与えた暗号名であり、公式文書でもそのように――つまりつねに単数形で書かれている。しかし実際には、このダブル・エージェントはふたり一役だった。ガルボというキャラクターは、ふたりの男によって作り出されたのだ」。もう一人の男とは、MI5本部にあってプジョルを支えたトマス・ハリスです。

ガルボの驚くべき作戦を覆っていた秘密のベールが剥がされていきます。

ガルボは、自分はさまざまな特技を持つ27人の配下を抱えていると敵に思い込ませることに成功しますが、この27人は全て架空の存在だったのです。「2年以上かけて、偽の親ナチ・スパイネットワークを育て、拡大してきた。『ロンドンの男』(ガルボ)に対するドイツ側の信頼も強まっている。時は来た。ガルボの最も重要な任務が始まる」。

「数万の連合軍兵士の命運は、ロンドンの偽造工作者(ガルボ)の肩にかかっている。ガルボ・チームは行動の時にそなえていた。何か月も前から準備を進め、虚報と目くらましを重ねてきたが、はたしてそれでじゅうぶんだったのだろうか」。ガルボは、その日に備えて、着々と手を打っていきます。「『フォーティチュード作戦』の意図は、ノルマンディー上陸は陽動作戦だとドイツ側に思わせ、侵攻の主力はその後にパ・ド・カレーにやって来ると思い込ませることだった」のです。

ガルボは、とどめを刺すべく、Dデイ(ノルマンディー上陸作戦決行日。1944年6月6日)の3日後に、「以上の報告から明々白々なように、現在の攻撃は大規模ではありますが、本質的には陽動作戦です。その目的は、この作戦地域に強固な橋頭堡を築くことにより、できるだけ多くのわが軍の予備部隊を引きつけ、別の地域での攻撃を確実に成功させることなのです」と、ドイツ側に打電します。

「ロンドンでは、軍の指揮官や政治家、そして偽装工作担当者らが固唾をのんで待ち受けていた。一世一代の大ペテンは果たして功を奏したのか。無数の部署で働く男女の全員が、なにも手につかずにただ待っていた。英国切ってのダブル・エージェントの策略は果たして成功したのか」。

何人かの部下を経由してもたらされたガルボの情報の文章を直に目にしたヒトラーは、まんまと罠にはまって、ノルマンディーに向かわせていた最精鋭部隊を急遽、パ・ド・カレーに移動させます。

「ドイツ側はガルボの計略にはまったばかりか、情報が正確で役に立つと称賛しているのである。なにもかもハリスとプジョルの思うつぼだった。あとは作り話を続けられるだけ続けて、ドイツの最精鋭部隊を連合軍から遠ざけ、できるだけ長く偽装工作を引き延ばせばよいのだ」。

「ノルマンディーの戦いにドイツは敗北した。いまとなっては退却するしかない。LAH(ヒトラー近衛部隊)は師団としては存在しないも同然だった。5000ほどの兵を失ったばかりか、戦車も大砲もすべて失ったのだ」。「ノルマンディーにおける連合軍の強行突破の余波で、ドイツ軍は急激に崩壊しつつあった」。

「今日の歴史では、ガルボは『第二次世界大戦で最高のダブル・エージェント』と称賛されている。しかし、ガルボが失敗していたら、あるいはまったく存在していなかったらどうなっていただろうか」。「より大きな真実に奉仕するための虚偽。いまのこの世界があるのは、主としてガルボの才能、想像力、そしてユーモア感覚のおかげなのだ。そして、これは真実である」という結びの言葉が、心に沁みます。