テレビ・ドキュメンタリー『未来への遺産』を創った男・・・【情熱的読書人間のないしょ話(690)】
あちこちで、いろいろな色のツバキが咲いています。ジンチョウゲは満開を迎えています。ウメも頑張っています。コブシが咲き始めました。因みに、本日の歩数は10,117でした。
閑話休題、『テレビ・ドキュメンタリーを創った人々』(NHK放送文化研究所編、NHK出版。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)では、テレビ草創期から今日に至るまでに、テレビ・ドキュメンタリーの制作に携わったさまざまな創り手たち18人の仕事ぶりが記録されています。
この中で、一番興味深いのは、「吉田直哉(NHK)――永遠のTV少年が手にした玉手箱」です。
「とかく専門性と云う名のタコツボに安住しがちな業界にあって、あたかも『玉手箱』を手にするが如く自らの独自性(オリジナリティ)を示して止まない眼を輝かした『永遠の少年』があった。その『玉手箱』にはドラマであろうがドキュメンタリーであろうが、既存のフレームを越え、自由闊達にクロスオーバーする『TV的』な表現が詰まっていた」。
若かった私が世界の遺跡に対する目を開かれたのは、『未来への遺産』シリーズによってでした。「『未来への遺産』は俗世をしばし忘れて永遠の相の下、地球規模でじっくり味わう重量感あるドキュメンタンリーとして企画された。『未来への遺産』こそ眼を輝かした『永遠の少年』のすべてが現われた『TVの玉手箱』ではなかったか。60分番組で、プロローグ1本、本編14本、紀行編2本、総集編2本、計19本からなる膨大なシリーズが編成された。ここには『TV少年』の原形質が宿っている」。「『玉手箱』からは『世界の美と謎に満ちた遺跡の旅』が取り出され、中心コンセプトに据えられる」。
吉田自身が、こう語っています。「単に断片的に考古学的知識、歴史知識を想起するだけでは、対話にはならない。沈黙の世界と対話するために、知識よりも必要なものは、想像力である。想像力なしに、人は自分の心をのぞきこめない。まして古代人の心になってみるために、何より必要なのは、想像力であると私は思う」。そうか、当時、あれほどこの番組に惹きつけられたのは、想像力を激しく刺激されたためだったのですね。ペルーのナスカの地上絵を知ったのも、この番組ででした。
「こうして戦略的なシリーズは視聴者から圧倒的な反響を呼ぶ。それは一言で言えば『未知への驚き』であったろう」。そのとおり、これまで知らなかったことを知る喜びを味わうことができたのです。
折に触れて、NHK「未来への遺産」取材記の3部作『失われた時への旅』『刻まれた情念』『壮大な交流』(NHK取材班著、日本放送出版協会。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を読み返すと、当時のワクワク感が瑞々しく甦ってきます。