古事記神話には、縄文時代の巨大噴火が色濃く反映しているという仮説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(748)】
電線に止まって懸命に囀るホオジロを、初めてカメラに収めることができました。カルガモが熱心に羽繕いをしています。有毒のドイツスズランが、かわいらしい白色の花をたくさん咲かせています。我が家の庭の片隅では、ハナグルマが咲き誇っています。因みに、本日の歩数は10,476でした。
閑話休題、『火山で読み解く古事記の謎』(蒲池明弘著、文春新書)を読んで、『古事記』はこういう読み方も可能なのかと、知的好奇心をいたく刺激されました。
『古事記』は、イザナギ、イザナミによる国産み→黄泉の国の物語→高天原での岩戸隠れ神話→スサノオ、オオクニヌシの出雲神話→日向の高千穂への天孫降臨→神武天皇の東征の物語――という順で叙述されています。著者は、このいずれの段階の神話にも火山活動が濃厚な影響を与えていると主張しているのです。
「日本の歴史を俯瞰すると、縄文文化が隆盛であったエリアは火山的な風土をもっているのに対し、弥生文化のエリアは活火山のないところです。縄文エリアは長野県など中央高地、東北、関東、そして古事記神話の主要舞台である九州南部ですが、実は出雲地方も火山性の地質と縄文的な風土をもっています。弥生エリアの典型は近畿地方です」。
「私たちは科学の時代に暮らしています。だから巨大な噴火や地震が起きると、それを地球物理学のプレートテクトニクス理論によって理解しようとしていますが、古代の人にとってそれは『神』としか呼びようのない超自然的な現象に見えたのではないでしょうか。そこに思考が生じ、神話が誕生するきっかけがあるとおもいます」。
著者は、7300年前、九州本島南端の沖合で起きた巨大噴火が、アマテラスとスサノオの姉弟の物語に結びつく可能性を検討しています。
検討課題は、この3つです。①なぜ、古事記神話は日向(九州南部)、出雲(島根県)が主な舞台となっているのか。②アマテラスを初めとする神々は絶えず戦っている。そうした戦いの背景には、どのような歴史的事実が存在するのか。③古事記の素材となった神話や伝承の起源は、どの時代まで遡ることができるのか。
検討の結果、著者が辿り着いた結論は、このようなものです。①九州南部と出雲は西日本における2つの火山集積地である。②神々の戦いは、現実の戦闘行為ではなく、荒ぶる火山活動を鎮めるための祈りの比喩的表現である。③古事記に記録されている神話は、縄文時代あるいはそれよりも古い旧石器時代に起源を持つ可能性がある。
アマテラスの岩戸隠れは、荒ぶる火山(=スサノオ)を鎮める女性祭祀者(=アマテラス)の物語として読むことができるというのです。凄まじい噴煙が空を覆い、太陽を隠してしまうほどの噴火を目撃した古代人の記憶がアマテラスの岩戸隠れの神話の根幹にあるというのです。
著者は、この火山の巨大噴火は、「鬼界カルデラ大噴火」だと推考しています。「『鬼界カルデラ大噴火』とは、縄文時代の半ばごろの今から7300年まえ、鹿児島県の南端の薩摩半島、大隅半島の沖合で発生したすさまじい規模の噴火です。縄文時代の始まりをもって日本の歴史というのであれば、日本史上最大の噴火であるのですが、それにとどまりません。岩波書店の月刊誌『科学』(2014年1月号)で東京大学地震研究所の前野深氏は『完新世(約1万年前以降)における地球上で最大の噴火』と解説しています」。
アマテラスの岩戸隠れの神話は巨大噴火の後の日照障害とする火山説は、寺田寅彦、アレクサンドル・ワノフスキーらが主張したもので、著者はこの説の強力な支持者として、本書を著したのです。