小さな国・デンマークの国民の幸福度が高い理由・・・【情熱の本箱(50)】
『デンマークという国を創った人びと――『信頼』の国はどのようにして生まれたのか』(ケンジ・ステファン・スズキ著、合同出版)は、160ページ余りの小冊子であるが、読み終えて、日本人の私にも希望と勇気が湧いてきた。
「デンマークの国土面積は約4万3000平方キロメートル(九州と山口県を合わせた面積とほぼ同様)で人口は約560万人(兵庫県とほぼ同じ人口)です。デンマークの気候は日本に比べると、冬は寒くて長く、夏は短くて涼しく、春と秋は晴れたり、曇ったり、雨が降ったりの不順な天候が続き、決して恵まれていません。デンマークの国土は、氷河の置き土産である氷堆石の上にわずかな土壌の層が乗っているという貧栄養状態です」。
このような厳しい自然条件にも拘わらず、各種調査で、デンマークの人々は世界で最も幸福な国民という結果が出ているというのだ。「このように、デンマークを含めた北欧の国が『世界でもっとも幸せな国民だ』と世界中からいわれている背景には、数値では表すことができない国民間における『信頼』(デンマーク語では“Tillid”英訳ではSocial confidence)があるためだ、と私は考えています。・・・国民の『信頼』はお金で買えるものではなく、その国の国民が歩んだ過程で、その時代に生きた人びとの努力によって育成されたものです」。日本人の一人として、耳が痛いなあ。
この本は、デンマークに帰化した鈴木健司という日本人が、デンマークではどうして多くの国民が自分たちは幸せだと感じているのか、一方、日本ではなぜそうでないのかという問題意識を持って書き進めている。著者が辿り着いた結論は、デンマークという国を創ってきた代々の人々の努力が、国民の間に「信頼」を生み出し、現在もその信頼が生きているからだというものである。
先ず、「農奴の解放に力を注いだレエペントロウ兄弟」が紹介されている。伯爵にして大荘園の領主であり、後に首相にもなったクリスチャン・レエペントロウ(1748年~1827年)は「農奴に土地を分け与える一方で、分散している農地を集約して、領地内の農民の生活改善を図ります。領地内に学校を建設して教員を雇い、農民の子どもに教育を受ける義務を課しました。自ら子どもたちの試験に立ち会うほどの熱意で農民の子どもの教育に力を入れました。・・・このような内容を持つこの法案は1788年6月20日に国王の署名を得て発効されます。小作人(農奴)の身分が契約関係によって成立することを認めることで、貴族や豪農の荘園で小作農として拘束されていた農奴たちは解放されることになります」。
この他、「流砂防止に貢献したヨハン・ウルリック・オール」、「政治への市民参加を唱えた公務員ウベ・イエンス・ローンセン」、「童話作家アンデルセン」、「哲学者キルケゴール」、ビールの「カールスバーグの創業者ヤコブ・クリスチャン・ヤコブセン」、「風力発電機を開発したポール・ラ・クーア」、「バターを開発したトーマス・リース・セゲレック」、「農業協同組合を創設したヤコブ・ステリング・アンデルセン」、「デンマークの労働組合の基礎をつくったルイス・ピオ」、「『コペンハーゲン女中組合』のリーダー、マリア・クリスチャンセン」、「女性の参政権を導入したカール・セオドア・ザール」、ナチス占領下で「本国の『自由と独立』に職務を賭けた外交官カウフマン」、糖尿病薬で知られる世界的な製薬企業・ノボ ノルディスクを創業した「ノーベル生理学・医学賞を受賞したオウガスト・コロー」、理論物理学者で量子論の育ての親といわれる「ノーベル物理学賞受賞のニルス・ボーア」などなど、さまざまな分野の傑出した人物たちの事績が、時系列で簡潔に記されている。
小さな国でありながら、各分野にこれほど多くの人材が輩出したことは驚きである。原発、安全保障、憲法といった重要問題で国論が二分され、その上、人口減少が懸念されている日本が学ぶべきことが、本書には詰まっている。