榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

30年振りにニューヨーク駐在になった小室と、当時の女性秘書マーサーとの物語・・・【山椒読書論(641)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月25日号】 山椒読書論(641)

コミックス『人間交差点(22)――名前』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「名前Ⅱ」は、30年振りにニューヨーク駐在になった小室と、当時の女性秘書マーサーとの物語である。

「彼女は優秀で美しい秘書だったが、我々は毎日のようにつまらないことで言い争いをしていた。彼女の心の中に、私が日本人であるということが突き刺さっていたに違いない。彼女の口癖はいつも『私はいつやめさせられても結構です』だった。事実彼女ほどの実力があれば、何も日本人の下で働かなくとも、いくらでも働き口があったろう」。

「有色人種に偏見を持っていると思われるマーサーも、一緒に仕事をしているうちに少しずつ変わっていった」。「お早うございます、ボス。また(会社に)お泊まりですか? 今、熱いコーヒーを入れますから」。「相変わらず個人的な話はしなかったが、マーサーは変わっていった。私をボスと呼ぶようになり、仕事も積極的になっていった」。

小室の日本への帰国が決まった日、マーサーが退職を申し出る。「ボスは素晴しい。とても、尊敬出来る人。今まで出会った、どんな男より素敵だ、そう思ったの」。マーサーは泣きながら部屋を出ていく。「さよなら、ボス!」。

今回、北米担当常務に就任した小室は、昨年、離婚している。

30年後に、小室が遂に探し当てたマーサーは・・・。

読み終わり、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの『即興詩人』のクライマックス・シーンを思い浮かべてしまった私。