結婚式のケーキ入刀の直前、新婦が逃げ出したのは・・・ ・・・【山椒読書論(624)】
【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月7日号】
山椒読書論(624)
コミックス『人間交差点(18)――川辺り』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「電話」は、迷いながら結婚式を迎えた女性の物語である。
「人生には2つの生き方がある。幸福に生きる権利を行使する生き方と、行使しない生き方。・・・私は行使します」と、結婚式場の衣装室でメイクをしてもらいながら、野沢くみ子は見合い相手とのこの結婚を自分に納得させようとする。
先日まで、転送電話で秘書代わりをする秘書電話会社のオペレーターをしていたくみ子は、売れないロック歌手の関川明と知り合った。「私は彼の小さなコンサートのファンになった。カセットテープのような小さな恋がめばえていった。大きな砂漠の中で、箱庭を作っているような恋だった。嵐が来れば一瞬のうちに消え去ってしまう、砂のお城の中にいるような・・・そんな危うい、しかし、確かな恋だった・・・」。
「ごめんなさい、明・・・私・・・」。「いいんだよ。気にすんな。電話で一言『さよなら』って言ってくれりゃ、俺はそれでよかったんだぜ」。「さよなら」。
ケーキ入刀の直前、その場を逃げ出したくみ子が、公衆電話から明に電話して言ったことは・・・。