工員たちが働く街で生まれた男の物語・・・【山椒読書論(645)】
【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月29日号】
山椒読書論(645)
コミックス『人間交差点(24)――水面の華』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「荘厳な残像」は、工員たちが働く街で生まれた男の物語である。
「ボクにとって大人とは、いつも汗と油の混ざった臭いをさせている男達だった・・・。ボクは彼等の表情や行動がすべて見せかけのものだと思っていた。見せかけの明るさと活力と、そして彼等の笑いに迎合していたのだ。そして、いつかこの世界から抜け出そうと思っていた」。
「でも、(教授になっている)今は違う。あの街とあの人々の明るさとエネルギーの意味を知っている」。「小さい時からボクが辛い労働をしながら生きている大人達を見て育ったから、がんばれたんだ・・・」。
焼き鳥屋をやっている兄から、息子をボクの付属小学校に裏口入学させてくれと頼まれたボクの言葉。「兄さん、これだけは言えるんじゃないかな・・・疑うことよりも信じることのエネルギーの方がはるかに大きいってこと・・・。憎むより愛する方が、はるかに強くて圧倒的なんだ」。
妙に励まされる作品である。