59名の書店員の気持ちが率直に綴られた仕事を巡るエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(768)】
深夜にフクロウの鳴き声が聞こえました。今朝はホトトギスのけたたましい鳴き声で目が覚めました。散策中も、ホトトギスの鳴き声が聞こえました。ケムリノキ(スモークツリー)を見つけました。雌木の花が散った後、伸びた花柄が煙のように見えます。あちこちでカシワバアジサイが咲いています。タチアオイの赤い花が目を惹きます。モモが実を付けています。モモを育てている男性は、2カ月前、昼間に、近くの森でタヌキの親子4匹を目撃したそうです。我が家の庭の桃色のアジサイがほんのりと色づいてきました。因みに、本日の歩数は14,157でした。
閑話休題、書店は私にとって、時間の経過を忘れてしまう異次元空間です。『書店員の仕事』(NR出版会編、NR出版会)は、59名の書店員へのインタヴューと寄稿で構成されています。「本書は、8年近くにおよぶ時間軸のなかで書店員に綴っていただいた、それぞれの現場に固有の多様な声を収録している。その間、出版・書店業をめぐる環境は急激な変化を繰り返しているが、私たちがとくに意識してきたのは『現場の人の声を聴きたい』という一点であった。老若男女さまざまなタイプの書店員に登場いただいているが、現場で本に向き合い、読者に向き合い、書店という空間が社会のなかでどのように機能すべきかを真摯に考え、実践してこられた方ばかりである。結果、本書はすぐれた『読書論』の本としても、次代を担う若者に向けた『仕事論』の本としても、その他、読者の想像力次第で多様な読み方ができる一書になったと考えている」。
「NRの会」の熱い問いかけが心に響きます。「一冊の本に人はいのちを賭けることもある。一冊の本があなたの運命を変えることもある。一冊の本がたたかいの武器となることもある。――一冊の本に出会うということは素晴らしいことだ。いま新しい本のページをひらくとき――<NRの会>」。
萬松堂(新潟市)の相馬俊幸の「ツワモノ読者と向かい合う仕事」には、こういう一節があります。「書店の中というのは不思議と時間の流れが違うよう。入社当時、お年寄りと思っていた方が、チョット老けたかなと思う程度で年を取らないように思え、本の話になると目が輝き、さらに若返っていく瞬間を目の当たりにすると、活字の魔力を感じます」。
喜久屋書店北神戸店(神戸市)の市岡陽子の「今日もアナログ注文」は、こう綴られています。「書店員の仕事は責任重大であると思う。入荷した本を生かすも殺すも書店員の判断にかかっている。生命の危機に晒されることはないが、書店で出会うべき本と決別させるのは、生きる糧を得る上では同等の価値があると考えたい。注文や選書、棚入れを一人で考え、決断する仕事は時に孤独である。どのような仕事でも言えるが、書店員にとっても担当している棚は最終的には自分自身が全て責任を負わなければいけない覚悟を持って臨んでいる」。
フタバ図書MEGA祇園中筋店(広島市)の芝健太郎は、「書店員よ、もっと楽しもう」と呼びかけています。「書店の棚やジャンル分類は完全ではない。当たり前なことだが、棚やジャンルの壁を意外と乗り越えられない。雑誌を買うお客様は人文書を買わないわけではない。ビジネス書を読むお客様が小説を読まないわけではない。文庫は文庫の棚にないといけないわけではない。もちろん、お店の買いまわりのしやすさとして、近くにあったほうがいいジャンルはある。・・・もっと自由に動かせばいい。東野圭吾の単行本の近くに東野さんの文庫を並べる、このことは何でもないけど、『日本』史の棚に『ハーメルンの笛吹き男』(阿部勤也著、ちくま文庫)があって何が悪いだろうか(僕はこの本を大学時代に読まなかったことをとても後悔している)。そして、お客様が全く思いもよらない飛躍を見せてもいい。飛べばいい」。
名古屋大学生協南部書籍店(名古屋市)の伊藤美子の「本の並べ方に正解はないけれど」には、書店員の哀歓が滲んでいます。「見せ方や並べ方のセンスを培うのは、『本を売った』経験かなぁと思う。どんな人が買ったのか、何を一緒に買ったのか。売上スリップを見ながら我慢する。今日届いた本がその日のうちに売れていると、『一人でハイタッチ』気分。あるいは『初回発注少なすぎ』反省会」。
三省堂書店神保町本店(千代田区)の大塚真祐子の「生まれたときから本屋だった」は、書店の本質に触れています。「書棚を眺めながら本を選びとる行為と、問いから答えまでの思考の過程とは、そのテンポや長さ、本質において似ているとわたしは思っている。仕事でも人生でも、解決しない問題をかかえたときや、問題が何なのかさえわからなくなったとき、ぜひ信頼できる人文書売場に足を運んでほしい。ただ何も考えず、本棚を眺める名前のない時間を作ってほしい。書棚を眺めることで、膨大な情報や興味が得られることを多くの方に体感してほしいし、体感できる棚をつねに作りたいと考えている」。
三重大学生協翠陵店(津市)の杉本舞子の「大学で本を売るということ」では、所定員の喜びが語られています。「お店に並べる本を選ぶときは、その本が自分のお店で売れてゆく姿を想像しながら、仕入れをします。『あの人がこの本を買うかも』、『あの人はこの本が好きかな』――そう思って仕入れた本を先生や学生が買ったことが分かると、とても嬉しくなります。本は、コンビニの新商品や売れ筋のお菓子とは違って、『同じ本を同じ人が二回以上購入する』ということは基本的にはありません。そのため、本一冊一冊に、読む人のことを思う、そんな仕入れの積み重ねで、今の自分の書籍の仕事は培われています」。
本書を読み終わり、私の大切な異次元空間を日々支えてくれている書店員の地道な努力に感謝の気持ちが湧き上がってきました。